本研究は、飢餓時に起こるKDM2A(K-specific demethylase)の制御機構を明らかにする目的で行った。 まずKDM2Aが活性化する飢餓要因を詳細に解析した。その結果、グルコース飢餓にKDM2Aが応答する事が分かった。グルコース代謝阻害剤の2-デオキシグルコース(2DG)を処理した所、特に低濃度(マイルドな)処理でrDNAプロモーターのH3K36me2脱メチル化、rRNA転写抑制がKDM2A依存的に誘導された。この処理濃度はグルコース飢餓に応答する他のrRNA転写因子より低濃度であった。よって、マイルドな飢餓によるrRNA転写抑制では、転写因子制御よりもクロマチン制御が先に起こる事を示唆している。 先の2DG処理は細胞内ATPレベルを低下させ、AMPKを活性化させた。そこでKDM2A制御へのAMPKの関与を検討したところ、マイルドな2DG処理時のKDM2AによるrRNA転写制御はAMPK活性を介する事が分かった。 次にがん細胞増殖への作用を解析した。先の実験では乳がん細胞のMCF-7細胞を用いたが、異なる悪性度のMDA-MB-231細胞(TNBC)でKDM2A依存的rRNA転写調節を検討した所、存在する事が分かった。次にヒト乳がん組織のKDM2A発現量を検討した所、悪性度と関連なくKDM2Aが発現していた。rRNA量低下が細胞増殖に作用するかを、マイルドな2DG処理時と同程度のrRNA転写抑制を起こすPol I阻害剤処理で検討した所、同程度の細胞増殖抑制を起こした。MCF-7とMDA-MB-231細胞でマイルドな2DG処理による細胞増殖抑制を解析した所、両細胞でKDM2A依存的に生じた。 以上の結果は、マイルドな飢餓時にAMPKシグナル経路を介してKDM2AはrDNAクロマチン制御・rRNA転写抑制をする事、これが、乳がん細胞のマイルドな飢餓時の増殖制御に作用する事を示している。
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