分裂期における染色体分配は細胞の分裂・増殖に必須の生命現象であり、凝縮した染色体が構築されるとともに間期のDNA複製や遺伝子発現などの活動が抑えられると考えられている。しかし、実際には分裂期でも遺伝子の転写は活発に起こり得る状態にあり、染色体分配と転写制御は未知の仕組みによって両立していることが推測される。本研究は、染色体制御の中心的役割を担うコンデンシン複合体が、「遺伝子発現制御をはじめとする分裂期染色体上での活動を維持しながら染色体を分配しているのではないか」という新たな仕組みの検証を目的として行った。 25年度における解析の結果、分裂酵母コンデンシンがRNAポリメラーゼIIによる転写活性化領域へ結合することを、2つの制御可能な遺伝子群(分裂期活性化遺伝子および熱ショックタンパク質遺伝子)を用いて示した。また、機能の欠損した変異型コンデンシンは転写領域に結合せず、変異細胞はその後染色体分配の欠損を高頻度で示すことも明らかにした。さらに、26年度の解析の結果、コンデンシンの転写領域への結合はDNA複製後の分配可能な染色体上にのみ起こること、コンデンシンは転写の活性化や終結自身に対しては大きな影響を与えていないことが判明した。 以上の結果は、コンデンシンがRNAポリメラーゼIIによる転写物(RNA)の生成を認識して染色体上に結合し、遺伝子発現が活発に起こっている染色体領域を正確に娘細胞へ分配していることを強く示唆する。詳細な分子メカニズムの解明にはさらなる研究が必要であるが、本研究の成果により、コンデンシンが熱ストレスへの対処など染色体上の活動を維持しつつも遺伝情報を正確に子孫へ継承しているという新たな仕組みの一端が明らかになった。
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