研究課題/領域番号 |
25840020
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
河野 慎 京都産業大学, 総合生命科学部, 助教 (90431676)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リン脂質輸送 / 単離ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
26年度に予定していたMdm12とMmm1の相互作用解析について、構造解析に成功しているMdm12の分子表面を標的とした光架橋性アミノ酸(BPA)の導入を試みた。大腸菌を用いてタンパク質を調製するin vitroおよび、酵母内で複合体を形成させるin vivoの系の両方について、最適化を含め実験を進めたが、ともに成果が得られなかった。これは、アンバーコドンによる非天然アミノ酸を導入する本システムが、Mdm12に対しては有効でないためであると推測された。そこで、大腸菌より精製したタンパク質を用いて解析することが可能な、化学架橋剤を用いた解析を試みた。これまでに、還元剤による架橋産物の開裂が可能な化学架橋剤であるDTSSPによる架橋産物の形成を確認した。ここで得られた架橋産物は、DTTによる開裂も確認できているため、特異的な架橋であると推測される。現在、得られた架橋産物を用いて、MS解析による架橋部位の同定を試みている。 また、相互作用解析の一環として、Mdm12-Mmm1複合体の結晶化を進めているが、低分解能ながら、再現性良く結晶が得られる条件を得ることができた。Mdm12の構造に基づく発現領域の最適化をさらに進めること、および結晶化条件の最適化を行うことで、27年度中の構造決定を目指す。 前年度から引き続き進めているMdm12およびMmm1によるin vitroリン脂質輸送系について、リポソームを用いた完全な人工的なアッセイ系から、単離ミトコンドリアを用いたよりin vivoに近い形へと発展させることができた。野生型および変異Mdm12を発現する酵母株から単離したミトコンドリアと、精製Mdm12およびMmm1を用いたリン脂質輸送実験を通じて、ミトコンドリア外膜に存在するERMES複合体自身が、リン脂質の受容体となっていることを明らかにした。現在、これらの知見をまとめて論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mdm12とMmm1の相互作用解析について、光架橋実験は有効でないことが分かった一方で、化学架橋剤を用いることで、特異的な架橋産物を得ることができた。上述の通り、本研究で用いた化学架橋剤DTSSPは、架橋産物形成後にDTTなどの還元剤を用いることで容易に開裂させることができるため、DTTの有無で分子量の変化するペプチド断片が相互作用に関与する領域である可能性が高い。この系を用いることで、Mdm12-Mmm1複合体の相互作用部位の同定が期待できる。 また一方で、強力な相互作用解析の実験として複合体の結晶構造解析が挙げられる。もちろん、生化学的解析により相互作用部位を同定することは重要であるが、複合体の構造情報を利用することができれば、より詳細な相互作用解析および変異体作成が期待される。さらに構造情報に基づく生化学的な解析の系を用いることで、複合体の相互作用の変化についても解析を進めることが期待できる。 さらに本研究では、Mdm12とリン脂質との相互作用解析について詳細に解析を進めることができた。当初の予定では、ERMES複合体構成因子間の相互作用解析で十分である、と考えていたが、Mdm12とリン脂質の複合体の結晶構造解析に成功することで、タンパク質成分だけでなく、リン脂質認識についても解析を進めることが可能であると示された。事実、Mdm12のリン脂質認識に関与するアミノ酸を置換した変異体を発現する酵母株では、生育遅延が観察されており、リン脂質との相互作用の重要性についても、明らかにすることができた。 以上に挙げた理由により、概ね研究は順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行している解析は、MS解析によるMdm12とMmm1の相互作用部位の同定および、Mdm12-Mmm1複合体の結晶構造解析である。まず相互作用部位の同定について、解析結果を得たのちに、候補残基へ変異を導入し、大腸菌内で共発現した際の複合体形成能および、酵母の生育への影響を検討する。これはMdm12のみならず、同時にMmm1の相互作用部位の決定も期待されるので、これまで手つかずであったMmm1に関する解析も同時に進めていく計画である。また、昨年度はアンバーコドンを利用した非天然アミノ酸の導入を試みたが、チオール-マレイミド相互作用による光架橋剤の導入も進める。つまり、Mdm12の表面残基を標的としたシステイン変異体を精製し、マレイミド基を持つベンゾフェノンを反応させることで、システイン残基の位置に光架橋性官能基であるベンゾフェノン基を導入することができる。すでに既知の相互作用部位を持つ複合体について実験を行い、実験系が有効であることを確認している。 次にMdm12-Mmm1複合体の結晶構造解析であるが、Mdm12の発現領域および、得られている結晶化条件の精密化を進める。pHや沈殿剤濃度など、基本的な精密化を進めると同時に、既知の結晶化条件に対してある一定割合のスクリーニング溶液を混合することで、結晶の性質を改良することが期待されるblend screenと呼ばれる方法も行っており、現在までに結晶系の大きく異なる条件が見つかっている。今後、得られた結晶を用いた回折実験を行い、構造決定を試みる。
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