鉄硫黄クラスター(Fe-S)は、SUFマシナリーと呼ばれる一連の蛋白質群により生合成される。SUFマシナリーの作動機構は、生物界最大の膜輸送体スーパーファミリー(ABC-transporter)の原型であり、共通した原理で全く異なる機能(クラスター合成と膜間輸送)を成し遂げるという可能性を示した。本申請ではその”心臓部”といえるコア複合体に焦点をあてた。本研究では、Fe-Sクラスター合成装置の作動メカニズムの全容解明を目的とし、構造決定だけでなく、その構造変化を可視化することを進めた。 [1]コア複合体の構造基盤の確立 コア複合体の立体構造の決定・・・・Fe-Sクラスター合成のコア複合体(SufB1-SufC2-SufD2複合体)は、それぞれの遺伝子を大腸菌内で共発現させることで精製することに成功した。構造決定に向けて、精製した複合体蛋白質を用いて好気および嫌気条件での結晶化スクリーニングを進めた結果、幾つかの微結晶を得ることができた。これらの結晶化条件を最適化したところ、糖を沈澱剤とした条件において、結晶のサイズアップに成功した。そこで、大型放射光施設SPring-8において、得られた結晶の回折強度測定を行い2.95A分解能のデータを得た。さらに、さまざまな重原子を用いた多波長異常分散法による位相決定を進め、コア複合体の立体構造を決定した。コア複合体は、新規構造モチーフを有し、二分子のSufCが対峙するように配向することが分かった。
[2]蛍光分光法によるATP依存的な構造変化の実証 精製したコア複合体(SufB1-SufC2-SufD2複合体)を用いて、ATP依存的な構造変化を蛍光分光器によって検出することを試みた。コア複合体はATP存在下において、疎水領域が増加することを実験的に捉えることができ、明らかにコア複合体には構造変化が生じていることを実証した。さらに、ウエスタンブロッティング法によって、SufCと呼ばれるATPaseドメインが複合体中でダイマー化することを明らかにした。
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