研究課題/領域番号 |
25840027
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 啓 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 助教 (10390626)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA複製開始因子 / タンパク-DNA複合体 / X線結晶構造解析 / PriCT領域 |
研究概要 |
本研究では、大腸菌を宿主とするColE2プラスミドの複製開始因子ColE2-Repタンパク質をターゲットとして、DNA複製開始初期に形成される複製開始複合体を時系列で可視化、追跡し、DNA複製開始反応中に起こるDNA・タンパク複合体の構造変化についての分子基盤を明らかとする事を目的としている。一般的にDNA複製開始反応は多数の因子の関与により多段階で進むため構造生物学的アプローチが困難であるが、ColE2-Repはそれ単体で複製開始反応を進めるための複数の機能を果たす上に比較的低分子量であり、更に反応の各段階を生化学的に分離可能という特徴がある。ゆえに研究目標の達成に適した因子である。 本年度は、ColE2-Repの複製開始因子としての機能に注目し、その複製開始点認識機構と2本鎖DNA解裂の分子機構の解明に取り組んだ。本因子は複製開始因子として小型の分子である上に単量体でDNA2本鎖を解く。複製開始因子は一般的に多量体でDNAを解くため、既知の2本鎖DNA解裂機構とは異なる分子機構が想定されていた。RepのDNA結合ドメインとColE2プラスミドの複製開始点ori配列を含む2本鎖DNAとの複合体の結晶構造を得て、連携研究者により蓄積されている機能解析の結果とを併せる事で、小型のタンパク質が単量体でDNA2本鎖を特異的に解裂させる新規機構を提案した(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題で注目しているColE2-Repは複製開始因子として複製開始点に特異的に結合し、2本鎖DNAを解裂させる。またプライマーゼ活性を有し、自らが露出させた1本鎖DNAを鋳型としてppApGpAの3塩基からなるプライマーRNA合成を行う。合成されたプライマーを用いてDNA合成酵素IがDNA複製を開始する。 本研究では、Repによる2本鎖DNA解裂機構と、その後のプライマー合成機構の分子機構の2点に着目している。前者については計画通りに進んでおり、現在論文を投稿中である。本因子によるユニークな2本鎖解裂機構を立体構造に基づいて明らかとした。また本因子はArchaeo-eukaryotic primaseファミリー(AFPs)に属するプライマー合成酵素に保存されていることが分かっていたが機能未知であったPriCT領域と相同な領域を有しており、本領域がDNA2本鎖解裂に関与する新規モチーフである事を初めて明らかとした。その一方、後者については目的とする複合体サンプル調製の条件検討が計画通りに進んでいないため、研究全体の進捗状況としてはやや遅れ気味であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
目的とするタンパク質DNA複合体の結晶を得てColE2-Repによる複製開始点への結合と2本鎖DNA解裂の分子機構を明らかにする事が出来た一方で、研究のもう一つの柱であるプライマーゼによるde novo RNA鎖伸長機構の解明に向けた解析が遅れ気味である。一般的に複製開始因子はアグリゲーションを生じやすく、サンプルを安定に大量調製する事が困難であり、ColE2-Repもその例に漏れない。更に本研究では3元複合体での結晶化という難易度が高い課題に挑戦している。既に得られているColE2-RepのDNA結合領域とDNAとの複合体の立体構造を基に、複合体化に用いるオリゴDNAの鎖長をデザイン出来るのは「強み」であり、今後はRNA鎖合成機構の解明に集中した研究活動を行う。今年度に得た成果と併せて、複製開始点への複製開始因子の結合とDNA2本鎖構造の解裂からプライマーゼによるプライマーRNAの合成といった、DNA複製開始反応に広く普遍的な基礎的なプロセスについての分子機構の解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、目的とする複合体の結晶化実験を行うために適したタンパク質の調製が計画通りに進まなかったため、複合体化に用いる合成DNAの購入費用を次年度へと繰り越した。 タンパク質調製条件の検討は進んでおり、そのサンプルを用いて複合体での結晶化実験を次年度に本格化させる。
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