本研究では、大腸菌を宿主とするColE2プラスミドの複製開始因子ColE2 Repタンパク質を用いて、DNA複製開始複合体を時系列で可視化、追跡し、DNA複製開始反応中に起こるDNA・タンパク質複合体の構造変化についての分子基盤を明らかとする事を目的としている。一般的にDNA複製開始反応は多数の因子の関与により多段階で進むため構造生物学的アプローチが困難であるが、Repはそれ単体で複製開始反応を進めるための複数の機能を果たす上に比較的低分子量であり、更に反応の各段階を生化学的に分離可能という特徴があり、研究目標の達成に適した因子である。 昨年度はRepの複製開始因子としての機能に注目し、本タンパク質による複製開始点認識機構と2本鎖DNA解裂機構の解明に取り組んだ。RepのDNA結合ドメインとColE2プラスミドの複製開始点ori配列を含む2本鎖DNAとの複合体の結晶化に成功し、2本鎖DNA解裂中間体の立体構造を得た。分子量15kDa程の小さなタンパク質が、それ1分子で巧みにDNA2本鎖を解くユニークな仕組みを明らかとした。DNA結合ドメインのN末に保存されたPriCT領域が重要な役割を果たしており、本領域はバクテリアや真核生物のウイルスなどでも保存されている。今年度はその成果を論文発表し(Itou et al. J.Biol.Chem.2015)、次のステップとなるRepによるプライマーRNA合成機構の解明を目指して全長タンパク質での複合体の結晶化に取り組んだが、目的とする結晶を得る事は出来なかった。
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