本研究はミルク中の分泌性タンパク質であるカゼインをゴルジ体でリン酸化するキナーゼ分子(ゴルジ体キナーゼ)を明らかにすることを目的としている。ミルク中に含まれる主要なタンパク質であるカゼインは、リン酸化タンパク質として古くから知られてきた。乳腺細胞のゴルジ体画分を用いた古典的な研究により、カゼインは3種類のキナーゼ(CK1、CK2、Golgi-Casein Kinase)によりリン酸化されることが示されたが、その分子実体は不明であった。これまでに本研究者は、Golgi-Casein Kinase分子としてFAM20Cを同定した。そこで、カゼインをリン酸化する残り2種類のゴルジ体キナーゼ(CK1、CK2)を同定し、ゴルジ体におけるカゼインのリン酸化機構の全容解明を目指している。 カゼイン中のCK1とCK2配列をリン酸化するゴルジ体キナーゼとして4つの可能性を考えている。1)FAM20Cとファミリーを形成する遺伝子群のいずれかがリン酸化する、2)FAM20Cがリン酸化する、3)細胞質キナーゼとして知られるCasein Kinase1と2がリン酸化する、4)未知のキナーゼ分子がリン酸化する。これらの可能性を考慮しつつ、真のカゼインキナーゼの同定を試みている。 本年度は、FAM20Cのショウジョウバエ強制発現を行い、FAM20Cの強制発現はショウジョウバエの正常発生に影響を与えるが、発生完了後の個体には影響を与えないことを明らかにした。さらに、昨年度新たに同定したゴルジ体キナーゼと予測される2種類の遺伝子のショウジョウバエを用いたRNAiとCas9システムによる遺伝子破壊を行った。
|