分泌性糖タンパク質であるWntは、細胞の増殖や分化など様々な細胞機能を制御している。Wntのシグナル伝達には複数の経路が存在しており、多数のWntファミリーや受容体によって制御されている。しかし、Wntシグナル経路の選択的な制御機構はほとんどわかっておらず、Wntと受容体の親和性を調整する第三の因子の存在が考えられた。本研究では、第三の因子としてヘパラン硫酸(HS)を側鎖にもつグリピカン(GPC)4に着目し、Wntシグナル経路の選択的活性制御機構の解明を目的としている。 前年度までに、GPC4はHS鎖を介してWntシグナル経路を活性化していること明らかにした。そこで、本年度はHS鎖の詳細な解析を行った。GPC4はGPIアンカータンパク質であり、脂質ラフト領域と非脂質ラフト領域の両方に存在する。GPC4のC末端側をシンデカン(SDC)1のC末端側に変異させたGPC4/SDC1は非脂質ラフト領域のみに存在し、GPC4とは異なるWntシグナル経路を制御することが明らかになっている。そこで、GPC4とGPC4/SDC1のHS鎖を構成する二糖単位の構造解析を行った。その結果、両者の二糖構造組成に違いは見られなかった。しかし、タンパク量あたりのHS二糖構造の割合は、GPC4/SDC1の方が二倍程度多く検出された。このことから、GPC4とGPC4/SDC1のHS鎖の鎖長の違いが示唆され、それが両者のシグナル伝達の違いを制御していると予想された。
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