過去の研究にて行ってきた、原核生物由来のタンパク質の凝集性の網羅解析に対して、その普遍性を調べるために、真核生物由来のタンパク質を用いて同様の解析を行い、それらの結果を照らし合わせることで、種を超えた「タンパク質凝集・フォールディングに対する一般即」を明らかにするべく、研究を行ってきた。昨年度には真核生物である酵母のタンパク質約500種類の凝集性について実験を行い、今年度はそれらの中で凝集性の強い約120種のタンパク質について、凝集を抑制する因子である分子シャペロンの凝集抑制効果について実験を行った。そして、実験によって得られたデータと、様々なタンパク質の性質とを統計解析によって調べた結果、原核生物と真核生物のタンパク質において、凝集に影響する物理化学的な性質(分子のサイズやアミノ酸組成など)は共通するということが明らかとなった。その一方で、両者の間でホモロジーを持つタンパク質間では、それらの進化の程度(進化速度)が大きいほど酵母タンパク質における凝集性が小さくなること、また天然変性領域と呼ばれる特定の構造を持たない領域が凝集性と関係するということが明らかとなった。天然変性領域は原核生物と真核生物の進化的な差異に深く関係していると考えられており、本研究によって得られた知見はこれら2つの生物界における生物の進化の仕方の違いについて、タンパク質の分子進化という観点から理解する際に重要な示唆を与えるものであると考えている。
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