研究課題
若手研究(B)
平成25年度はまず無負荷に近い金微粒子(40nm)を回転プローブに用い、ATP濃度をKm以下の低濃度から飽和濃度まで変化させた実験から、回転分子モーターであるE. hirae V1-ATPaseのATP結合待ちの角度と加水分解・リン酸解離待ちの角度を決定し、その停止時間の解析から反応素過程の時定数を求めた。その結果、ATP結合待ちの停止角度と加水分解・リン酸解離待ちの停止角度がT. thermophilusのV1-ATPaseと同様に同じ角度であること、つまりE. hirae V1-ATPaseは常に120度ステップで回転し、サブステップが見られないことを明らかにした。またT. thermophilusとE. hiraeは生育温度が40度近く異なる上にATP合成とイオン輸送と生理的機能が全く違うにも関わらず、kinetic parameterが非常に近いことが分かった。これらの結果から、構造が基本的な回転分子モーターの回転ダイナミクスを決定しており、生理的機能はADP阻害など制御機構の違いで実現していることが示唆された。次に比較的大きな回転プローブ(287nm)を用い、連続的な回転から揺らぎの定理を利用してE. hirae V1-ATPaseのトルクを決定した。その結果、E. hirae V1-ATPaseのトルクは詳細な回転計測が行われている好熱性のF1のトルクの1/3程度の値となった。これはE. hirae V1-ATPaseが示すclear state, unclear stateの2状態遷移が原因だと考えられ、unclear stateではトルクが低いことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記載した平成25年度の目的であるE. hirae V1-ATPaseの回転ステップ角度の同定に成功しており、E. hirae V1-ATPaseの回転にはサブステップがないことを明らかにした。次に予定していたハイブリッドV1-ATPase(ATP結合と加水分解両者が遅くなった変異を1つだけ持つV1-ATPase)の作製には至っていないが、これはE. hirae V1-ATPaseの基本的な回転ダイナミクスの同定の段階で当初想定していなかった大きなトルクの低下が新たに判明し、その原因の究明を行っていたからである。しかし現在すでに加水分解反応が遅くなった変異体の作製に成功しており、詳細な1分子解析を行っている。そのため研究計画はおおむね順調に進んでいるといえる。
今後はATP結合と加水分解両者が遅くなった変異体の解析と、その触媒サブユニットを野生型の3つの触媒サブユニットの1つと交換したハイブリッドV1-ATPaseの作製をまず行う。こうして作製したハイブリッドV1-ATPaseの回転観察を行い、観察された変異由来の長いATP結合待ちと加水分解待ちの停止の相対角度から、変異触媒サブユニットに結合したATPが何度先で加水分解されるかを決定する。次に回転と基質結合解離の同時観察の実験系により、回転とそれに伴う蛍光ATPの結合解離を同時に観察する。そこから結合した基質は何度先まで結合しているのか、回転の際に何個基質が結合しているのか、ATPの結合とADPの解離は回転と完全に同期しているのか等、基質の結合解離に関わる詳細な情報を得る。
年度末の緊急を要する消耗品の購入に対応したため、最終的に次年度使用額が4千円弱生じた。最終的な金額が少額であったため年度末に無理に使用するよりも次年度に合算して研究に必要な物品の購入に充てたいと考え次年度使用額が生じた。次年度使用額は4千円弱と少額のため、使用計画は申請書に記載した通りで変更は無い。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件)
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