本年度はE.hirae由来のV-ATPase全体(EhVoV1)の回転特性を明らかにするために、EhVoV1の1分子回転計測系の構築を行った。構築した計測系を用いて可溶化状態における1分子回転計測を行ったところ、面白いことに粘性の高い回転プローブを用いた場合ではEhVoV1はEhV1よりも速く回転し、そのトルクはEhV1の倍と見積もられた。この結果はEhVoV1では回転子・固定子間の相互作用がセカンドストークにより安定化されていることを示唆している。しかしながら、EhVoV1のトルクの値(23±10 pNnm)は他種のF-ATPaseやV-ATPase(30-40 pNnm)と比べると明らかに低く、この低いトルク(低いエネルギー変換効率)で生理的条件下のようなナトリウム駆動力を形成できるのかという疑問が残る。さらに驚くべきことに、ATP飽和・ナトリウム飽和の条件で、粘性がほぼ無視できる金微粒子(直径40 nm)を回転プローブに用いて実験を行ったところ、EhVoV1はEhV1よりも遅く回転した。これはVo内の相互作用やナトリウム輸送・解離が回転を妨げていることを示唆している。さらに本年度はEV1の化学力学共役を明らかにするため、EhV1の触媒サブユニットに1つだけ変異(F425E変異、ATP結合およびその他の加水分解の素過程がどちらも遅くなる)を導入したハイブリッド分子の回転計測を行った。その結果、EhV1ではATPの結合角度を0°とした時、240°でもう一つの反応素過程(ATP の開裂、ADP解離、Pi解離のいずれかもしくは複数)が起こることが示された。現在は蛍光ATPの結合・解離と回転の1分子同時計測を行っておりADP解離の角度の同定を進めている。
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