研究課題/領域番号 |
25840060
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
森次 圭 横浜市立大学, その他の研究科, その他 (80599506)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | タンパク質相互作用 / barnase-barster複合体 / 分子動力学シミュレーション / MSES法 / 全原子空間探索 |
研究概要 |
MultiScale Enhanced Sampling (MSES)法は、全原子モデルと低自由度の疎視化モデルを連成させたマルチスケール手法により全原子の解像度で効率的に構造空間探索を実行することができる。今年度の研究ではタンパク質複合体のモデルとして数多くの実験・計算をとおして研究がすすんでいるbarnase-barster複合体にMSES法を適用しタンパク質間相互作用の自由エネルギー地形を計算した。 粗視化モデル(CG)の自由度としてはアミノ酸のCa原子を考え、粗視化モデル力場としては複合体構造を安定状態とするような弾性ネットワークモデルを用いた。全原子モデル(MM)とCGのばね強度を変えた12個のレプリカ計算を100 ns実行することにより十分な構造サンプリングを実現した。得られた構造アンサンブルから自由エネルギー地形を計算した結果、平衡MDより幅広い空間で構造がサンプルできたことを確認した。複合体構造における原子コンタクト(native contact)に注目した自由エネルギー地形を見たところ、2つのタンパク質の相互作用が特定のパスを経ることなくdownhillなファネル上のエネルギー面を滑り降りることにより形成されることを示した。相互作用形成過程でのタンパク質間の接触原子ペア数と水和水の数を計算したところ、複合体に近づくにつれて原子間相互作用が形成され、それに従い水和水が離れる脱水和が起こることがわかった。 さらに複合体界面での水素結合形成を解析したところ、native contact数が大きなMSESの構造アンサンブルでは、結晶構造で形成されている8つの水素結合が再現されていた。それらの結合様式から2つの局所的な界面が定義できるが、その形成過程を見ると、主鎖間の結合で形成される界面が複合体形成を安定化するような補助的な役割を果たすのに対し、側鎖間の結合で形成される界面が最終的な複合体形成に決定的であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画にあるbarnase-barster複合体の全原子空間探索はシミュレーションと解析を終えており、論文にまとめているところである。また、来年度の研究テーマであるEIN-HPr複合体についてはハミルトニアンレプリカ交換MSESシミュレーションのためのテスト計算を終えたところであり、来年度からすぐにプロダクトランを始める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
常磁性緩和促進法(PRE)の実験データのあるEIN-HPr複合体に対してMSES法を適用し、複合体形成過程の全原子構造探索を行う。EIN-HPr複合体の分子間PREデータをもとに粗視化モデルを構築、MSES法と組み合わせることにより、遷移中間体構造を原子解像度で決定する。また、遷移中間体から複合体構造に到達する自由エネルギー面を計算し、遷移中間体で非特異的に結合した側鎖構造、また、複合体構造を探索するターゲットサーチ過程におけるタンパク質間の接触様式を原子解像度で明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
計算で得られたトラジェクトリバックアップ用途のストレージサーバを今年度に購入しなかったため。 30テラバイト程度のストレージサーバを購入する。また、ローカルマシン用のハードディスクや解析用のソフトウェアを購入する。成果報告のため、アメリカ生物物理学会などに出席する。
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