研究実績の概要 |
生体膜は脂質二重層を形成し、それを構成するリン脂質は非対称に分布している。ホスファチジルセリン(PS)は、細胞膜では内層(細胞質側)に多く存在しているが、ERやゴルジ体では内腔側を向いており、細胞膜とは異なる脂質非対称性制御機構の存在が示唆される。本研究では、細胞内PS局在に異常が生じる酵母変異株をPSプローブであるGFP-Lact-C2を用いてスクリーニングし、得られた因子を解析することにより、内膜系の脂質非対称性制御機構の解明を目指した。生育に必須ではない約4,500遺伝子のスクリーニングを行った結果、46の遺伝子を同定し、その機能とGFP-Lact-C2の局在から6つのグループ(初期エンドソーム-TGN経路、後期エンドソーム-TGN経路、multivesicular body (MVB)経路、クラスリンを介した輸送、ミトコンドリア関連、液胞融合)に分類した。これらのうち、後期エンドソームからトランスゴルジ網(TGN)への逆行輸送を仲介するレトロマー複合体に着目し、細胞内PS輸送への関与について検討した。レトロマー複合体の欠損株では、GFP-Lact-C2は液胞膜に局在しており、レトロマー複合体が後期エンドソームからTGNへPSを選択的に輸送する可能性が考えられた。また、レトロマー複合体のVps5とVps17はPSを含むリポソームと結合し、その結合はVps5とVps17のBARドメインの持つ正電荷と負電荷を持つ脂質との電荷を介した結合であることが示唆された。さらに、Vps5とVps17は、PS依存的にリポソームをチューブ状に変形させた。これらの結果から、レトロマー複合体の構成因子であるVps5とVps17がPSと電荷により結合し、後期エンドソームからTGNへPSを輸送する可能性が示唆された。
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