研究課題
若手研究(B)
通常、中心体は間期の細胞内に一つ存在するが、DNA 合成期になると複製され、分裂期には紡錘体極として染色体の分配に関わる。一方、栄養飢餓や細胞間接着に応じて増殖相から休止期へと移行する時期になると、中心体は一次繊毛の土台構造である基底小体へと変換される。一連の過程から、一次繊毛の形成は細胞周期依存的であり、増殖相の進行と相反する関係にあるということができるが、増殖相からの離脱と一次繊毛形成を関連づける分子シグナルの詳細は不明のままである。本研究では、主要な増殖抑制経路である Hippo経路の下流因子で、ヒトのレーバー先天性黒内障に相当するイヌの繊毛症の一つである網膜変性症の原因遺伝子として知られるNuclear Dbf2-related kinase 2 (NDR2)に着目し、NDR2の発現抑制によりヒト網膜色素上皮(RPE)細胞の一次繊毛構築が阻害されることを見出した。RPE細胞では一次繊毛形成の序盤に中心体近傍に膜小胞が集積・融合して繊毛小胞とよばれる構造を形成するが、本研究ではこの過程に必要な低分子量Gタンパク質であるRab8の活性化因子であるRabin8をNDR2の基質として見出した。さらに、中心体への小胞の繋留には膜繋留因子複合体の構成蛋白質のひとつであるSec15が関与するが、Rabin8はNDR2にリン酸化されることで、その結合特異性を膜構成脂質のひとつであるホスファチジルセリンからSec15にスイッチすることを見出した。以上の結果から、NDR2は一次繊毛形成過程におけるRabin8-Rab8の機能を調節し、一次繊毛形成の初期段階である繊毛小胞の形成過程において重要な役割を担っていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究目的のひとつであるHippo-NDR2を中心とした一次繊毛形成機構の解明について、NDR2の生理基質の同定とそのリン酸化制御機構の解析により、繊毛鞘形成プロセスを担う分子基盤の一端を明らかにすることができたことから、概ね順調に進展していると自己評価した。
NDR2の発現抑制細胞では、少なくともNineinやCenexin/ODF2、Cep170といった既知の親中心小体構成要素の局在に変化は見られなかった。しかしながら、NDR2が間期中心体から基底小体への変換機構を直接制御する可能性は現時点で否定できず、CP110やCep97などの繊毛形成の阻害因子やCep83、SCLT1、TTBK2などの新規に同定された親中心小体Distal apppendage構成蛋白質の局在に対してNDR2の発現抑制が与える影響についても詳しく検証していく必要がある。また、現時点でNDR2発現抑制細胞では血清飢餓への誘導により、コントロール細胞と同様に細胞周期からの離脱が起こり、細胞停止期へ誘導されるという結果が得られている。以上の結果は、一次繊毛形成自体が直接的に増殖亢進から増殖停止を制御する訳ではないということを示している。そこで、本研究では研究目的の一つとして掲げた、NDR2の上流因子であるほ乳類Hippoキナーゼとその関連因子の一次繊毛形成への関与について詳細に解析し、一次繊毛形成と細胞周期からの離脱を制御する分子基盤の包括的な理解につなげていきたい。
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