研究実績の概要 |
これまでに、申請者は主要ながん抑制経路であるHippo経路NDRがRabin8のリン酸化を介して一次繊毛形成に関わることを見出している (EMBO.J 2013)。NDRの生理基質としては他にPI4K、Rab11-FIP5、AAK1の各分子が候補因子として提唱されているが、本研究ではこれらの一次繊毛形成への関与を検証した。ヒト網膜色素上皮細胞にPI4K、Rab11-FIP5, AAK1に対する特異的なsiRNAを導入し、血清飢餓依存的に誘導される一次繊毛形成に対する影響を評価した。この結果、PI4K、Rab11-FIP5、 AAK1、いずれの発現抑制において一次繊毛構築の阻害がみられた。中でも、PI4KはNDRによって実際にリン酸化されることをin vitro kinase assayよりみとめ、リン酸化によりその活性を正に制御する可能性を見出した。そこで、蛍光蛋白質を融合したPI4Kの野生型およびNDRによるリン酸化部位をリン酸化されないアラニン残基に置換したリン酸化部位変異体を細胞に発現させ細胞内局在を解析した結果、PI4Kの野生型と比較してリン酸化部位変異体はゴルジ体またはリサイクリングエンドソームと思われる部位に強く局在することがわかった。一次繊毛の形成の序盤には親中心小体遠位側に特有の膜構造であるCiliary vesicleが形成される。Ciliary vesicleは以前からこれらの内膜系を出芽した輸送小胞に由来するとの報告がある。このことから、NDRによるPI4Kのリン酸化は、その局在や活性の制御を介してゴルジ体をはじめとする内膜系の脂質構成を変化させ、一次繊毛形成に必要なCiliary vesicleの形成に関与している可能性が示唆された。
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