研究課題
若手研究(B)
本研究では、分裂期にクロマチンが凝縮して染色体が構築されるメカニズムを、タンパク質のリン酸化に注目して明らかにすることを目的としている。細胞周期の分裂期への移行が、CDK (cyclin-dependent kinase)と Cyclinからなる複合体による蛋白質のリン酸化により制御されていることは広く知られているが、クロマチン凝縮とリン酸化の関係については未だ不明な点が多い。そこで、クロマチン凝縮に関わるタンパク質のリン酸化を同定するために、本研究では早期染色体凝縮(Premature chromosome condensation: PCC)システムを用いて間期細胞から染色体凝縮を誘導し、その際にリン酸化されるタンパク質を質量分析により網羅的に同定する。PCCは、ホスファターゼ阻害剤であるCalyculin Aを用いることで細胞周期のどの時期からでも染色体凝縮を誘導でき、PCCで検出されるリン酸化ペプチドと通常の分裂期でリン酸化されるリン酸化ペプチドを比較することにより、クロマチンの凝縮に関わるリン酸化を特定することが容易になる。当該年度では間期核からのPCCの条件を最適化するために、G1期およびG2期に細胞を同調する条件を決定した。ダブルチミジンブロックよりリリースしたHeLa細胞をフローサイトメトリーにより細胞周期を測定した結果、G1期への同調率は90%、G2/M期への同調率は65%であった。G2/M期への同調率が低いため、リン酸化ペプチドをM期細胞と比較する際にはG1期細胞からPCCを誘導したものを用いる。今後、HeLa細胞からクロマチン画分を調製し、抽出したタンパク質からHMMOC方によりリン酸化ペプチドを濃縮してLC-MSによる同定する。クロマチン凝縮に関わるリン酸化ペプチドのカタログ化することで、リン酸化による染色体凝縮のメカニズムの理解が進むと期待できる。
2: おおむね順調に進展している
当該年度では、(1)PCCシステム最適化のための細胞同調条件の検討、(2)リン酸化ペプチド濃縮方法の検討、(3)リン酸化ペプチドの同定を進めた。(1)については、ダブルチミジンブロックによりG1/S期に同調したHeLa細胞を用いて、リリースから1時間おきに細胞を回収し、フローサイトメトリーにより各周期の細胞の割合を求めた。その結果、リリースから6時間後にG2/M期の細胞の割合が65%、12時間後にG1期の細胞が90%の割合で回収できることがわかった。これらの同調を行った細胞をcalyculin Aで処理することにより、PCCを誘導できることも確認できた。(2)・(3)については、HAMMOC法を用いてLys-C/Trypsin消化後のペプチド断片からリン酸化ペプチドを濃縮し、LC-MSを用いて同定を行った結果、Calyculin A処理無の細胞からは1549個、有の細胞からは5337個のリン酸化ペプチドが同定された。このことから、PCC誘導細胞からのリン酸化ペプチドの同定が可能であることを示せたとともに、染色体凝縮には多くのタンパク質のリン酸化が伴うことが示唆された。以上のように、当該年度で目的としていたPCC条件の確立と、リン酸化ペプチドの同定を達成できたことから、当該研究はおおむね順調に進展していると判断した。
当該年度において、PCCを誘導した細胞からリン酸化ペプチドを同定することが可能であることを示せたが、同定されたリン酸化ペプチドの数が多く、クロマチンの凝縮に関わるリン酸化を特定することが困難である。そこで、今後はクロマチン結合タンパク質に焦点を当て、凝縮したクロマチンと脱凝縮しているクロマチンに結合しているリン酸化タンパク質を比較することでクロマチン凝縮に必要なリン酸化を特定する予定である。具体的には、細胞からクロマチン画分を調製し、PCC誘導の有無でのリン酸化ペプチドの変化をLC-MSにより解析する。この際、定量的な解析を行うため、SILAC等の定量的な質量分析法の導入も考慮する。また、分裂期染色体に結合しているリン酸化タンパク質とも比較することで、同定されたタンパク質のリン酸化がPCCに特異的なものではなく、通常の分裂期でのクロマチン凝縮にも必要であることを確認する。さらに、同定したリン酸化ペプチドに対する抗体を作製したり、リン酸化部位に変異を導入した蛍光タグタンパク質を作製したりすることで、クロマチン凝縮とリン酸化の時空間的関係を明らかにする。
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