研究課題
若手研究(B)
本研究の目的はイモリ心筋組織の再生に寄与する細胞の特定と、再生過程を制御する遺伝子の同定、およびその機能の解明にある。この目的達成の為に、次の4項目、(1) 再生過程に於ける細胞系譜追跡の為の遺伝的ラベル法の確立、(2) 遺伝的ラベルを駆使した細胞系譜の追跡による、再生心筋組織に対する寄与の特定、(3) 再生時・細胞種特異的な遺伝子破壊(コンディショナルノックアウト)法と遺伝子発現誘導法の確立、(4) コンディショナルノックアウトや遺伝子発現誘導を介した、心筋再生における遺伝子機能の解析、を計画した。これらのうち、本年度は(1)と(2)を推進した。まず、(1)の遺伝的ラベル法の確立については、心筋細胞を遺伝的にラベルできるイモリを多数作製し、性成熟まで飼育している。さらに現在はそれらの個体を交配させて得たF1世代のイモリ育成中である。これにより、細胞をより均一、安定的にラベルすることが可能になった。現在は最適なタモキシフェン処理条件の検討を進めている。(2)の細胞系譜の追跡と心筋組織に対する寄与の特定については、心筋細胞を特異的にラベルできるトランスジェニックイモリを作製できたことから、既存の心筋細胞のラベルと追跡実験に着手して、予備的結果を得ている。現在は心内皮細胞と心外皮細胞をラベルする為のプロモーターを検討中である。これらに加えて、次年度に予定されるコンディショナルノックアウトの作製に必要なTALENを用いた遺伝子破壊実験を実施し、その結果を原著論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の計画に基づいて実施された2つの研究項目のうち、(1) 再生過程に於ける細胞系譜追跡の為の遺伝的ラベル法の確立については、当初の計画通り、心筋細胞を遺伝的にラベルする方法を確立できた。さらに、それらのイモリから多数の子孫を得て、系統化を進めるとともに、26年度以降の研究推進に向けた基盤を整備することができた。2番目の項目である遺伝的ラベルを駆使した細胞系譜の追跡による、再生心筋組織に対する寄与の特定については、前項(1)において心筋細胞を特異的にラベルする方法が確立できたことから、実際の細胞系譜追跡実験を開始して、イモリの心臓再生時において既存の心筋細胞が増殖を行っていることを強く指示するデータを取得することができた。心内皮細胞と心外皮細胞をラベルできるイモリの作製に関しては、26年度もラベルに適した遺伝子プロモーターの検討を継続して行っていく必要が有る。これらに加えて、26年度に計画されていたTALEN法を用いたコンディショナルノックアウトイモリ作製の実験に着手した。特に、遺伝子のコンディショナルノックアウトに不可欠なloxP組替え配列を、イモリのゲノム中に正確に挿入する手法を確立したことは、26年度以降の計画実施に向けて極めて重要な知見である。これにより目的の達成を確実にする為の試料や試薬などの準備を進めることができた。従って、計画全体としては概ね順調に進展していると言える。
本研究が概ね順調に進行している状況をふまえ、引き続き研究を推進する方策は以下の通りである。まず昨年に引き続き、心臓再生における細胞系譜の追跡実験を行う。特に今年度は心臓再生の開始から完了までの過程を追った解析を行う。これにより、それぞれのステップで心筋細胞がどのように増殖するのか、増殖した細胞は回復した心筋組織内にどのように分布するのかを示し、既存の心筋細胞の寄与を明らかにする。さらに当初の計画通り、研究項目(3)および(4)を実施する。(3) 再生時・細胞種特異的な遺伝子破壊(コンディショナルノックアウト)法と遺伝子発現誘導法の確立については、平成25年度に得た予備的知見を最大限に生かしつつ、更なる発展を試みる。すでに、チロシナーゼ遺伝子の任意の領域をTALENで切断、loxP配列コードするDNA断片を挿入できることは示された。本年度は、挿入するDNA断片の長さ、導入する量、TALENとの比率等の条件を変えて、挿入に最適な条件の検討を行う。加えて、導入するDNA断片の塩基配列パターンの違いがゲノムへの挿入効率やその正確性にどのような影響を与えるのか、詳細に解析する。これらにより、コンディショナルノックアウトイモリの作製方法を確立する。さらに次なる段階である(4) コンディショナルノックアウトや遺伝子発現誘導を介した、心筋再生における遺伝子機能の解析に向けて、解析対象となる候補遺伝子の絞り込みを行う目的で、トランスクリプトーム解析や定量的PCR法を用いて、心臓再生過程発現パターンの解析を行う。これらを確実に推進することにより、研究目標の達成を目指す。
平成25年度に実施した研究項目のうち、特定の細胞に対する遺伝的ラベル法の確立については、心筋細胞をラベルする方法を順調に決定でき、少ない実験条件を検討しただけでイモリの系統化を進めることができた。また、心筋細胞以外の細胞系譜を特異にラベルできるイモリについては、そのために使用するプロモーターを検討中である。これらの要因により、作製したトランスジェニックイモリの個体数が少なくなった結果、遺伝子型の判定に使用する試薬類やイモリの飼育管理に関連する予算を次年度に使用する方がより効率的であると判断された。平成25年度の研究の進展状況にあわせて、当該年度は研究目標を達成する為に、トランスジェニックイモリの作製を重点的に行う。トランスジェニックイモリの作製に際しては、そのイモリ個体の遺伝子型を確認する解析に必要なPCR酵素や電気泳動に必要な試薬類とプラスチック器具類を購入する。さらに飼育に必要な水槽などの器具および飼料の購入、動物の維持管理に関わる支出に本予算を使用する。このように、平成26年度に交付予定であった予算と併せて、研究の推進に向けて有効に使用する計画である。
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