研究課題/領域番号 |
25840088
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
谷口 喜一郎 学習院大学, 理学部, 助教 (20554174)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 細胞死耐性 / アポトーシス / カスパーゼ / 生殖器附属腺 |
研究概要 |
細胞死耐性の獲得は、組織恒常性の維持・多様化において重要な形質であるといえる。しかしながら、成体組織が、多段階的に細胞死耐性を獲得していく遺伝的メカニズムは、不明な点が多い。申請者は、ショウジョウバエにおいて強い細胞死耐性を獲得している生殖器附属腺をモデルとして用い、細胞死耐性獲得における遺伝的制御メカニズムの解明に取り組んだ。 1) 附属腺における細胞死耐性制御点の包括的検索:附属腺細胞における細胞死耐性制御点は、細胞死誘導因子rprより下流でDcp-1/Caspase-7より上流であることを明らかにしている。そこで、rpr~Dcp-1に含まれる遺伝子の単独・複合強制発現を行い、細胞死誘導を行うかを調べた。その結果、Dcp-1を強制発現させることで細胞死が誘導された。一方で、Dcp-1以外の遺伝子 (rpr, Ark/Apaf-1, Nc/Caspase-9, Ice/Caspase-3) の単独・複合強制発現は細胞死を誘導しなかった。 2) 附属腺におけるアポトーシス経路構成遺伝子の発現解析:細胞死耐性獲得のシンプルな仮説として、アポトーシス経路構成遺伝子の発現抑制が考えられる。そこで、主要な4つの遺伝子(Ark/Apaf-1, Nc/Caspase-9, Dcp-1/Caspase-7, Ice/Caspase-3)の発現量について半定量RT-PCRにより調べた。その結果、附属腺においてDcp-1のみに顕著な発現低下が観察された。さらに、Dcp-1より上流においても細胞死耐性の獲得が起こっているかを調べた。その結果、DNA傷害誘導性のrprの発現上昇が、附属腺ではほとんど起こらないことが分かった。 1)および2)の結果により、附属腺では、rpr遺伝子のDNA傷害応答の抑制とDcp-1遺伝子の発現低下により2段階で細胞死耐性が獲得されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度研究計画では、2)強制発現アッセイをもちいた細胞死制御点の同定、2)アポトーシス経路構成遺伝子の発現量解析、3)DNA傷害応答の解析の3つの実験を遂行することで、本研究課題である、細胞死耐性の獲得メカニズムを解明することを目的としていた。 1)に関しては、当初の実験計画通りすべての強制発現実験を終了し、附属腺における細胞死耐性制御点がDcp-1/Caspase-7であることを明らかにした。2)にかんしては、RT-PCRによる遺伝子発現量の測定を予定通り遂行し、附属腺ではDcp-1の発現量が低下していることを明らかにした。1)・2)の結果から、附属腺における細胞死耐性の獲得には、Dcp-1/Caspase-7の発現抑制が関与していることが明らかになった。カスパーゼ遺伝子によるアポトーシス誘導は、広範な動物種で保存されており、この細胞死耐性の獲得メカニズムが一般化できるものであるか興味が持たれる。一方、2)においては、Dcp-1遺伝子の転写量を組織上で可視化するために、レポーター系統の作製を計画していた。しかしながら、今回作製したDcp-1-GFPは発現レベルが極めて低く、改良が必要である。3)に関しては、当初の計画通り、rpr遺伝子のレポーターを用いDNA傷害応答を調べ、附属腺においてはDNA傷害応答が起きないことを明らかにした。 以上に示す様に、25年度に予定していた3つの計画1)・2)・3)は計画通り遂行されており、順調に成果を上げることができている。これらを踏まえ、達成度は、“おおむね順調に進展している”と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究成果により、附属腺における細胞死耐性に関与する遺伝子として、DNA傷害応答の抑制とDcp-1遺伝子の発現抑制が関与していることが分かった。DNA傷害応答の抑制による細胞死耐性についてはすでに報告がなされており、ショウジョウバエ組織においてある程度共通のメカニズムであることが分かっている。一方で、Dcp-1遺伝子の発現抑制による細胞死耐性は、これまでいかなる生物でも報告がない。エフェクターカスパーゼは広範な動物においてアポトーシス誘導の中核を担う遺伝子であり、多様な組織において細胞死耐性獲得のための標的である可能性がある。また、Dcp-1エフェクターカスパーゼの発現の抑制は、カスパーゼ活性を喪失させるため、アポトーシス誘導を極めて強く抑えると考えられる。Dcp-1の発現抑制が、細胞死耐性の多段階的獲得における共通のメカニズムであるのか、今後調べる必要がある。また、Dcp-1の発現抑制が“どのような制御メカニズムによりもたらされるか”、“どの発生段階において獲得されるのか”を調べる必要がある。本研究計画の早い段階で、細胞死耐性の標的遺伝子を同定できたため、Dcp-1の遺伝子解析ツールを積極的に作製し、26年度以降の研究計画をより発展させていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の使用計画では、実験消耗品(プラスチックチューブ・一般試薬)や実験動物の維持に関わる経費(ショウジョウバエ飼育容器・餌)の必要経費は前年度の使用実績からの概算である。そのため、使用計画と使用額では少額ながら誤差が生じることとなっている。ただし、誤差として生じた次年度使用額は少額であり(4,555)であり、使用計画自体に変更を生じるものではない。 上記の通り、差額として生じた次年度使用額は少額であり、実験計画の大幅な変更を生じるものではない。次年度以降の実験計画における経費についても、実験消耗品と実験動物の維持に関わる経費は、使用実績の概算であるため、次年度使用額については、これら消耗品の経費として使用する予定である。
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