研究課題
細胞死耐性の獲得は、組織恒常性の維持・多様化において重要な形質である。申請者は、ショウジョウバエにおいて強い細胞死耐性を獲得している生殖器附属腺をモデルとして用い、細胞死耐性獲得メカニズムの解明に取り組んでいる。平成25年度までの研究成果として、附属腺の細胞死耐性は、Dcp-1/Caspase-7遺伝子の発現低下によることが示唆された。1) 附属腺においてDcp-1遺伝子の発現低下をもたらす要因:遺伝子発現量は、エンハンサーによる転写制御により制御されている。一方で、ショウジョウバエのアポトーシス経路を構成する遺伝子の多くは、マイクロRNAによるRNAプロセシングにより発現量が制御されることも知られている。そこで、附属腺におけるDcp-1遺伝子の発現制御が、上記のどちらによるものか検証した。その結果、Dcp-1の発現低下はエンハンサー依存的な転写制御によることが明らかになった。2) Dcp-1遺伝子の発現低下による細胞死耐性の組織共通性:附属腺は、イニシエーターカスパーゼNc/Caspase-9、エフェクターカスパーゼIce/Caspase-3を強制発現しても細胞死は起こさない。一方で、エフェクターカスパーゼDcp-1を強制発現すると細胞死を起こす。さらに、附属腺では、Dcp-1の発現量が顕著に低下している。これら結果から、附属腺における細胞死耐性制御点がDcp-1であると考えられた (平成25年度)。この結果を踏まえ、附属腺以外の細胞死耐性組織である、幼虫脂肪体(中胚葉由来)と成虫後腸(外胚葉由来)について、附属腺同様に細胞死耐性制御点を調べた。その結果、幼虫脂肪体は、附属腺と同様にDcp-1の発現低下による細胞死耐性を獲得していることが明らかになった。一方、成虫後腸は、Dcp-1の発現低下に加えて、さらに下流において細胞死耐性を獲得していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究計画では、1) 附属腺におけるDcp-1遺伝子の発現制御機構の解明、2) 附属腺と他の細胞死抵抗性細胞の比較解析を行うことで、遂行することで、本研究課題である、細胞死耐性の獲得メカニズムを解明することを目的としていた。1) に関しては計画時 (平成24年) の段階では、同定遺伝子についてエピゲノム解析による発現制御を予測していた。しかしながら、平成25年度において同定されたDcp-1は、主にRNAプロセシング制御による発現制御を受けることが報告されていた。そこで計画を変更し、RNAプロセシングと転写のどちらがDcp-1の発現制御に関与しているか調べた。その結果、Dcp-1の発現が転写制御 (エンハンサー活性) に依存していることを明らかにした。本結果については、転写制御の実態について更なる検証を行うことで、細胞死耐性機構の詳細を明らかにできると期待される。2) に関しては、従来の計画同様に、幼虫脂肪体と成虫後腸を用い細胞死耐性獲得メカニズムの比較を行った。その結果、附属腺・幼虫脂肪体・成虫後腸に共通してDcp-1の発現低下による細胞死耐性がもたらされていることが明らかになった。また、成虫後腸は、Dcp-1の発現低下に加えさらに下流において、細胞死耐性を獲得していることが分かった。成虫後腸における下流の細胞死耐性の詳細は不明であるが、異なる組織間での細胞死耐性の共通性と違いをともに見出すことができた。以上に示す様に、平成26年度に予定していた2つの計画1)・2)は計画通り遂行されている。また、一部進展状況に応じた計画の見直しを行っているが、順調に成果を上げることができている。これらを踏まえ、達成度は、“おおむね順調に進展している”と自己評価した。
平成26年度の研究により、附属腺における細胞死耐性は、Dcp-1遺伝子の転写低下によりもたらされていることが示唆された。また、Dcp-1および他のアポトーシス制御遺伝子は、RNAプロセシングによち発現制御を受けることが知られているが、附属腺におけるDcp-1遺伝子の発現制御にはRNAプロセシングは関与していないと考えられた。今後、Dcp-1の転写制御の詳細を明らかにすることで、細胞死耐性獲得メカニズムの実態が明らかにできると期待される。申請者は、Dcp-1の転写抑制には広範な組織において適応可能な手段により制御されていると考えている。そこで、多くの分化細胞において存在が確認されているエピゲノム解析を計画している。具体的には、ゲノム不活化時に形成されるヘテロクロマチン形成を阻害し、附属腺におけるDcp-1の発現低下が抑えられるかどうか検証する。また、Dcp-1遺伝子の発現低下による細胞死耐性の獲得は、附属腺のみならず幼虫脂肪体や成虫後腸にも存在していることが明らかになった。これら3つの組織は独立して発生する組織であり、発生に関与する遺伝子は大きく異なる。また、附属腺と幼虫脂肪体が中胚葉由来であるのに対し、成虫後腸は外肺葉由来であり、発生初期の段階から由来が大きく異なる。これらを踏まえると、Dcp-1遺伝子の発現低下による細胞死耐性は、一部の組織に特異的なものでなく、広範な分化細胞に存在している可能性がある。今後、Dcp-1の発現低下が、細胞死耐性の実態であるか、さらなる検証を計画している。具体的には、Dcp-1遺伝子の発現低下を起こさない系統を樹立し(IceエンハンサーによりDcp-1を発現する系統を作成予定)、上記の組織において細胞死耐性が失われるか検証する。
平成26年度の使用計画における、実験消耗品や実験動物の維持にかかわる経費は、ここ数年の使用実勢に基づき算出した概算額である。そのため計画時の支出予定額と実際の使用額に少額ながら差が生じている。しかしながら、これにより生じた次年度使用額は少額であり、使用計画に大きな変更を与えるものではない。
上記のとおり、次年度使用額は少額であり、平成27年度の使用計画において大幅な変更を伴うものではない。平成26年度同様に、次年度以降の使用計画においても、実験消耗品や実験動物の維持にかかわる経費も概算であり誤差が生じる可能性が高い。そこで、次年度使用額についてはこれら消耗品の経費として使用する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Genetics
巻: 199 ページ: 1183-1199
10.1534/genetics.115.174698
BMC Developmental Biology
巻: 20 ページ: 46
10.1186/s12861-014-0046-5
Mechanisms of Development
巻: 133 ページ: 146-162
10.1016/j.mod.2014.04.002
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~e090001/index.html