研究課題/領域番号 |
25840090
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
酒井 大輔 同志社大学, 高等研究教育機構, 助教 (90632646)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 活性酸素 / 胚発生 / 呼吸代謝 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画に沿って、神経上皮組織の発生を制御する活性酸素シグナル伝達機構の全体像の解明を目指した。前年度に確立した活性酸素の人為的減少法により、活性酸素が脳原基形成に必要であることが明らかとなった。また、脳原基形成の異常は、神経上皮細胞の細胞死が原因ではないことがわかった。さらに、神経上皮組織特異的に発現する活性酸素合成遺伝子の探索をRT-PCRとホールマウントin situ hybridization法によりおこなったが、遺伝子発現量が検出限界以下であり、組織特異的な発現を確認することができなかった。そこで、活性酸素合成酵素の阻害剤存在下で子宮外全胚培養をおこない、抗酸化剤処理胚と同様な表現型を示すのか調べた。様々な薬剤濃度、処理時間、添加のタイミングで培養をおこなったが、胚発生には顕著な異常は認められなかった。これらの結果から、内在性の活性酸素の産生はNox/Duoxファミリーなどの活性酸素合成酵素非依存的であることが示唆された。細胞の呼吸代謝状態が内在性活性酸素量を左右することが知られている。そこで、解糖系および酸化的リン酸化の阻害剤存在下で子宮外全胚培養をおこなった。その結果、解糖系阻害剤存在下で抗酸化剤存在下と同様な表現型が認められた。これらの結果は、胚発生過程において組織特異的な代謝変換が生じ、活性酸素産生を介して形態形成が制御されていることを示唆している。近年、呼吸代謝が細胞骨格リモデリングを制御し、細胞移動などに関与することが報告されている。しかし、組織ダイナミクスを制御する例は知られていない。本研究は、呼吸代謝による形態形成制御の初めての例となりうる。研究実施計画の内容から若干の変更が生じたが、活性酸素発生機構の解明には着実に近づいている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
仮説として挙げていた、活性酸素合成遺伝子の組織特異的な発現と活性酸素産生の可能性が否定され、それにより本来の研究実施計画からは若干の変更が余儀なくされた。しかし、呼吸代謝関連遺伝子の発現パターン解析などにもすでに着手しており、着実に活性酸素産生機構の解明には近づいている。活性酸素産生機構の全体像の解明には未だ至っていないため、当初の研究計画より少し遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸代謝系による活性酸素産生が形態形成に関与する可能性が見えてきたが、代謝活性そのものが形態形成に必要なのか、それとも副産物としての活性酸素が必要なのかは現時点では明確な解答が得られていない。活性酸素産生による形態形成制御機構の全体像を解明するために、代謝活性と活性酸素を切り離して注意深く解析していく必要がある。具体的には、エレクトロポレーション法による代謝関連遺伝子の発現抑制や過剰発現、代謝関連遺伝子の欠損マウスを用いた解析をおこない、代謝活性化と内在性活性酸素量との相関性を調べる。また、抗酸化剤存在下で子宮外全胚培養をおこなった場合に、代謝の活性化に変化が生じていないか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度におこなった研究結果から、組織特異的な活性酸素の産生が細胞の代謝活性に依存することを示唆するデータを得た。そこで、代謝関連遺伝子のノックアウトマウスを用いた解析を取り入れることにした。しかし、海外のリソースセンターから購入予定のマウスが、繁殖状況や輸入手続き等の事情により補助事業期間内での購入および搬入が不可能となった。そのため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用分は、購入予定であったノックアウトマウスの購入、輸送費用、検疫費用、マウスを用いた実験に必要な各種試薬類等の購入に充てる予定である。
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