研究課題/領域番号 |
25840094
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所 |
研究代表者 |
安永 桂一郎 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, 神経細胞生物学部門, 研究員 (20534572)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Wnt / 受容野 / 樹状突起 / サイズ / ショウジョウバエ / ライブイメージング / in vivo / 神経表皮間相互作用 |
研究概要 |
感覚ニューロンは樹状突起によって構築される受容野により体外環境を感知する。受容野の「位置」「サイズ」は環境刺激の空間情報を認知するための重要な要素である。しかし、受容野形態を決定する分子・細胞メカニズムに関してはいまだ不明な点が多い。本研究では、モデル生物としてショウジョウバエを利用し、受容野の境界形成における細胞外環境の役割を明らかにすることを目的とする。具体的には、本年度は、(1)感覚ニューロン受容野の境界決定におけるWnt5の役割の解明、(2)受容野の境界決定を制御する新規遺伝子の同定を目指し研究を実施した。 (1)Wnt5の役割についての解析を始めるにあたり、最初にWnt5発現細胞の同定を試みた。この目的のために、Wnt5プロモーターの下流にEGFPを配置した遺伝子改変ショウジョウバエを作製した。このハエでは、EGFPがWnt5発現細胞をラベルするレポーターとなる。これを利用して、Wnt5発現の時間空間パターンを解析したところ、受容野境界の樹状突起に接触する表皮細胞がWnt5を発現することを見出した。さらに詳しく観察すると、この発現は受容野境界が形成される前から始まり、完了するまで継続していた。これらの結果に基づき、私たちは受容野境界がWnt5の発現位置により規定されると考えている。(2)受容野の境界決定を制御する新規遺伝子の候補として、細胞内シグナルを伝達する遺伝子に着目した。特に細胞骨格系の制御に関係することが知られている約100遺伝子を中心にRNAiスクリーニングを実施した。その結果、受容野境界の形成に関与する候補遺伝子が5個単離された。現在、単離された遺伝子それぞれについて、Wnt5シグナルとのつながりに焦点を当てながら解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、受容野境界形成を制御する分泌因子Wnt5のダイナミックな役割の解明を目指すプロジェクトについては、Wnt5発現細胞の詳細な同定が進んでいる。この結果に基づき、Wnt5分子の位置が受容野境界を規定する目印となっていることが示唆された。2、受容野境界決定において樹状突起の振るまいを制御するメカニズムの解明を目指すプロジェクトについては、境界形成直前から形成完了までの時期にわたって、樹状突起の振るまいを生体内観察した。このとき、正常個体とWnt5機能欠損個体の比較実験を行うことができた。現在、この比較実験から境界形成時に特徴的な樹状突起の振るまいについての解析を進めている。3、受容野境界決定シグナルを伝達する受容体下流の細胞内分子ネットワークの解明を目指すプロジェクトについては、細胞骨格系を制御する遺伝子を中心にRNAiスクリーニングを実施しており、候補遺伝子を5個単離している。既に、これらの遺伝子の突然変異体を利用した遺伝学的解析を開始しており、来年度には具体的な分子メカニズムの解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1、生体内におけるWnt5分布を観察するために、mCherry標識Wnt5ノックイン系統を作製する。この系統を利用して、Wnt5の細胞外分布と受容野境界の関係を解析する。一方、Wntファミリー分子群の細胞外分布は細胞外マトリックス(ECM)によって規定されることが報告されている(Lin, development (2004) 131: 6009-6021)。Wnt5分布のダイナミクスがどのECM分子によって制御されるかを明らかにするために、へパラン硫酸プロテオグリカン、ラミニン、コラーゲンなどを含めたECM分子の組織内局在同定、及びECM遺伝子変異体を用いた機能解析をおこなう。2、Wnt5がどのようにして退縮・方向転換などの受容野境界近傍における樹状突起の振るまいを制御するかを解明するするために、ライブイメージングを用いて野生型とWnt5変異体の樹状突起を比較解析する。3、樹状突起内部において、どのような細胞内分子ネットワークが受容野境界決定における樹状突起の形態変化を制御するかについて明らかにするために、全遺伝子の網羅的スクリーニングを実施する。ここではDishevelledなどWntシグナルに関与する遺伝子を優先的に検証する。これと並行して、Src キナーゼなどの細胞内シグナル分子やアクチンなどの細胞骨格分子との相互作用に着目して単離された遺伝子を解析する。最終的に、同定された遺伝子群の解析により、受容野境界決定を制御する分子間ネットワークを同定し、その作動原理を明らかにすることを目指す。
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