研究課題/領域番号 |
25840099
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小西 美稲子 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (20642341)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 植物栄養 / 硝酸シグナル応答 |
研究概要 |
硝酸応答のためのシス配列(NRE)に結合するシロイヌナズナのNBP(NRE-binding protein)はNIN様タンパク質(NIN-like protein、NLP)であることを明確にしたことから、本実績報告書ではNBPではなくNLPと表記する。シロイヌナズナには9つのNLPが存在し、これまでにNLP6は硝酸シグナルに応答して活性が誘導される転写因子であることを明らかにしていたが、他のNLPの硝酸シグナル応答性は不明であった。そこでまず、他のNLPの硝酸シグナル応答性を解析した。NLP6はDNA結合ドメインを含まないN末端側領域で硝酸シグナルを受信することを明らかにしていたので、NLP1、2、4、5、7、8、9のN末領域とLexA の融合タンパク質を植物細胞内で発現させるためのコンストラクトを構築した。これらを、LexA結合配列を持つプロモーターの下流にGUS遺伝子を接続して構築したレポーター遺伝子を持つシロイヌナズナの根にパーティクルガンを用いて導入し、硝酸イオンの有無でGUS遺伝子の発現が影響されるかどうかを調べることにより評価した。その結果NLP6と同様に、NLP7, NLP9では明確な硝酸シグナル応答性が見られた。しかし、このアッセイ系では明瞭な結果が得にくいものもあったことから、新たにプロトプラストを用いたアッセイ系も構築しアッセイした結果、NLP1、2、4、5、8も硝酸シグナル応答性を示すことが明らかとなった。 各NLPの発現を調べるため、各々のNLP遺伝子プロモーターの下流にGUS遺伝子を接続し、これをシロイヌナズナに導入して形質転換植物を作成した。予備的解析結果から、NLP7プロモーターは葉や根の成熟部位において最も強く機能し、NLP7ともっとも相同性が高いNLP6は成熟部位の維管束でのみ発現しているという結果を得た。 個々のNLPの機能解析を行うために、バイオリソースセンターから一重T-DNA変異体の種子を取り寄せて、一重変異体のラインを確立すると同時に、多重変異体の作成を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、各NLPタンパク質の分子的性質の解析と、個々のNLPの植物内での生理的役割を明らかにするための準備段階として、発現部位解析、一重変異体の確立、二重変異体の作成に加え、多重変異体作成への着手を予定していた。発現部位解析と二重変異体の作成は若干遅れているが、発現部位解析については予備的な解析は終了しており、概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析から、ほぼすべてのNLPタンパク質が硝酸シグナル応答性を持着ことが明らかとなり、分子的性質としてはこれらの機能は重複していると考えられた。しかし、レポーターを用いた発現部位の解析から、それぞれのNLPの発現器官や組織が異なっていることも明らかとなり、各NLPは発現部位に依存して重複または異なる生理的役割を果たしていると予想される。そこで、各NLPの役割を解析するために、一重変異体からさらに進めて二重変異体、多重変異体を作成する。予備的解析の段階であるが、根で異常が見られている二重変異体があるので、これについては、発現部位の重なっているものとの多重変異体作成、詳細な表現型の解析を行って行く。他の二重、多重変異体についても窒素に関する表現型の解析を進める。 器官や組織特異的に異常が観察された変異体については、その部分を用いてマイクロアレイ解析を実施し、その異常の原因となる遺伝子を探索する。また、NLPファミリー全体の機能が抑制されている35S-NLP6-SUPRD形質転換植物の硝酸シグナル応答のDNAマイクロアレイ解析のデータが利用可能となったので、このデータから明らかとなるNLPの標的遺伝子について公共データベースを利用して器官や組織特異性を調べることでも、nlp変異体の部位特異的な異常に関与している標的遺伝子を探索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年8月に遺伝子組み換え植物栽培用の温室が故障したため、二重変異体の作成や発現解析用形質転換体の作成が遅れた。 H26年度の主要な実験は、H25年度に引き続きNLP多重変異体の作成、変異体の成長解析、トランスクリプトーム解析による標的の候補遺伝子の探索を予定している。多重変異体の作成と成長解析においては、植物の栽培やPCR法による遺伝子型の判定、当該NLP遺伝子の発現解析を行う。標的遺伝子の探索においては、マイクロアレイ解析を利用する予定である。したがって、植物の培養と分子生物学実験のために消耗品 (分子生物学試薬とプラスチック消耗品)と受託費用(シーケンス解析とオリゴヌクレオチド合成)を必要とする。さらに、マイクロアレイによる発現解析には高額の専用の試薬が必要であるので、これらの購入に次年度使用額を充てる予定である
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