約24時間の環境変化を予測するために多くの生物は概日時計を持っている。動物においては行動、生理、代謝、内分泌などに24時間の周期性があり、脳内の中枢時計細胞によってその周期性が作られている。モデル生物キイロショウジョウバエでは約150個の脳内神経細胞が概日時計を構成していることが分かっている。本研究ではキイロショウジョウバエの時計細胞の出力因子を同定するために、2種類の神経ペプチドITPとCCHa1の解析を行った。 これまでの研究によって、ITPに関して次のことを明らかにした。1)RNA干渉法によるITP遺伝子ノックダウンによる機能解析を行い、ITPの時計細胞における発現低下は、行動リズムに影響を与えることを明らかにした。2)ITPの過剰発現系統においても、行動リズムの影響が見られ、ITPの発現量が行動リズムに重要であることが明らかになった。3)時計細胞の神経末端部において、ITPの発現量には概日リズムがあることが明らかになった。4)時計出力因子PDF神経ペプチドとITPは相互作用して、行動リズムに影響をあたえることが分かった。 CCHa1については次のことが明らかになった。1)CCHa1はDN1とよばれる時計細胞の一群で発現していることが明らかになった。2)RNA干渉法によるCCHa1遺伝子ノックダウンによって、CCHa1が概日リズムに関与していることが明らかになった。3)CCHa1受容体の脳内の発現場所を特定することができた。 以上の研究より、ITPとCCHa1神経ペプチドは新規の概日時計の出力因子であることが同定できた。これまでショウジョウバエ概日時計の出力因子はPDF神経ペプチドしか同定されていなかった。従って、我々の研究によって、2つの因子を新たに同定できたことは、大きな成果である。
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