本研究は、線虫をモデル系に、記憶・学習を定量的に解析する系を構築し、記憶のエピジェネティックな制御機構を明らかにすることを目的とする。
線虫は物理的な刺激を受容するとその刺激に馴化し、その状態を長期にわたって保持する。これまで、この物理刺激の馴化学習・記憶をハイスループットに定量化する実験系はなかったことから、本研究ではまず、最初にこの実験系の確立に着手した。具体的には、線虫を飼育するプレート9つ同時に、任意の時間間隔で物理刺激を加えることを可能にすることにより、自動的に線虫の記憶のトレーニングを行えるようにした。また、レーザー光を分岐させることにより、蛍光ラベルされたトランスジェニックの個体と蛍光ラベルされていない野生株を、行動解析中にリアルタイムで識別することが可能となった。本装置を用い、まず、記憶の制御因子として深く知られるCREBの機能ニューロンの同定を試みた結果、機能ニューロンをAVAとAVDの2つに絞り込むことに成功した。CREBの活性化は記憶のありかと密接に関連していることから、同定されたニューロンは物理刺激の記憶を担うニューロンである可能性が高い。そこで、これら2つのニューロンに特異的に高発現する膜タンパク質の発現解析から、新規遺伝子を発見した。この新規遺伝子の哺乳類のオルソログはATACヒストンアセチルトランスフェラーゼと相互作用することが既知であるため、現在、この複合体の記憶形成における役割を解析している。
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