伝統的に生物集団についての研究は、平衡状態を仮定して行われてきた。これは主にデータに含まれる情報量が十分でなかったり、計算に要する時間がかかりすぎるという現実的な問題からきていた。本研究では、データ解析技術の発展や計算機能力の向上を背景に、非平衡状態にある生物集団について解析することを目的とするものである。まず(1)本研究ではapproximate bayesian computationの方法を用いて、実際に得られたデータそのものから集団史モデルの候補を検討する方法について研究を行った。その結果、モデルの詳細まで言及することは難しいものの、集団構造の有無や集団構造の変化といったイベントを検出することは可能であることがわかった。また(2)集団が分化する過程において、その程度を測る指標には複数の種類が使われている。それらが取る値のパターンについてシミュレーションを用いて比較検討を行った。その結果、指標がいくつかのグループに分類されること、さらにいくつかは集団の分岐時間に対応した性質を持つという望ましい性質を持っているということを確認した。これらの研究については論文を作成している。さらに(3)集団構造が存在し、かつ自然選択が働いている場合の遺伝的変異データを作成するための遺伝子系図シミュレーションの開発を行った。これは遺伝子のある特定のサイトに自然選択が働いている時に、その領域及び周辺領域の遺伝的変異パターンを作成するというものであり、集団史推定及び適応部位の特定に利用されることを念頭に置いている。そして(4)実際のデータ解析については、Distylium属やCryptomeria属の樹木種を用いた次世代シークエンサーデータの解析を行い、その変異量を計算し、集団史の推定を行った。
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