研究課題
本研究は、同所的に生息する近縁な2種のタナゴ類であるヤリタナゴとアブラボテについて、2種間の生殖隔離に関わる形質差の遺伝的基盤を特定すること、および野外集団でそれら2種間に隔離が成立する条件を解明することを目的としている。今年度は、昨年度作出したヤリタナゴ-アブラボテ種間雑種1代目(F1)の雌雄を飼育下で成熟させ、人工授精により交配することで種間雑種2代目(F2)を約100個体作出することに成功した。現在、それらの個体を飼育中である。同時に、野外で採集した2種からF1雑種を作出し(約50個体)、それらも飼育している。また、西日本の3カ所(福岡、島根、京都)のヤリタナゴ・アブラボテ地域集団について、脳からmRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて遺伝子塩基配列を網羅的に決定した。それらのデータをもとに、約10,000遺伝子による詳細な系統解析を行い、2種間の遺伝的差異を明らかにした。その際、特定の地域集団において2種間で同じ塩基配列が共有されている遺伝子も複数同定された。それらの遺伝子はおそらく種間交雑に由来すると考えられ、2種の進化において種間交雑が何らかの寄与をしていることが示唆された。また、野外10集団程度から採集した2種の複数個体(各集団、各種8個体程度)について、形態的変異およびミトコンドリアDNA、核DNAの遺伝的多型を調査したところ、ヤリタナゴ-アブラボテ間での種間交雑の頻度は地域集団ことに大きく異なることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
ヤリタナゴ-アブラボテのF1雑種を飼育下で性成熟させ、多数(約100個体)のF2雑種を得ることに成功した。現時点ではRAD-Seqによる分子マーカーの作成および連鎖地図の作製はまだ行うことができていないが、詳細な形態測定が可能になるまでF2雑種が成長するのを待ち、2015年度前半にはそれらの解析を行う予定である。ヤリタナゴおよびアブラボテで発現している遺伝子のRNA-Seqによる網羅的同定は、各種3個体ずつおよび種間雑種1個体で解析を行うことに成功し、学会発表も行った。現在、この解析については予定以上に進展している。また、西日本の複数の地域集団において、2種の交雑頻度を遺伝マーカーを用いて有効に推定することができた。さらに、本研究課題において新たに習得した解析手法を用いて、関連する論文を1報出版することができた。
2015年度は、RAD-Seqによる遺伝マーカーの作成、ヤリタナゴ-アブラボテF2雑種を用いた2種の連鎖地図の作製、および2種間で異なる複数の形態形質に着目したQTLマッピングを行う予定である。また、解析を行うF2雑種の検体数をさらに増やすため、現在飼育しているF1雑種で人工授精を行い、F2雑種をできるだけ多数作成し、飼育する。2種の脳で発現している遺伝子の網羅的比較については、2種間で遺伝子発現および機能が異なる遺伝子を複数同定する。また、種間交雑が2種のゲノムに与える影響を評価する。これらの成果を論文化し、年度内の投稿を目指す。西日本のタナゴ自然集団において、種間での形質の差異に関わる可能性のある複数の遺伝子について、種内多型のパターンを調べることで、それらの遺伝子に働く自然選択を明らかにする。また、種間交雑の生じる頻度が集団ごとに異なる現象についてより詳細に理解するため、交雑頻度が高い集団および低い集団(3集団程度)で、より多くの個体を調べる。また、遺伝マーカーの数も増やす。
次世代シーケンシングの受託解析の費用を翌年度に持ち越したため。
次世代シーケンス受託解析(RAD-Seq解析)を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Journal of Evolutionary Biology
巻: 28 ページ: 1103-1118
doi: 10.1111/jeb.12634