研究課題
本研究は、同所的に生息する2種の近縁なタナゴ類であるヤリタナゴとアブラボテについて、2種間の生殖隔離に関わる形質の遺伝的基盤を特定すること、および野外集団でそれら2種間に隔離が成立する条件を解明することを目的としている。今年度は、昨年度に引き続き、ヤリタナゴ-アブラボテ種間雑種1代目(F1)同士の人工授精により種間雑種2代目(F2)を作出した。現在、約100個体のF2雑種を飼育中である。また、昨年度に成熟したF2雑種(90個体)を固定し、ゲノムDNAの抽出および写真撮影・形態計測を行った。また今年度は、種間交雑が頻繁に観察される野外集団で採集されたヤリタナゴ・アブラボテ各1個体について脳からRNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)を用いて発現遺伝子の配列を網羅的に決定した。昨年度配列決定した3箇所の地域集団の個体と合わせて多数遺伝子座での分子系統解析を行い、2種の進化における交雑の寄与についてさらに解析を進めている。また、福岡県で採集されたアブラボテについて、NGSを用いて全ゲノム配列の解読を試みた。
3: やや遅れている
ヤリタナゴーアブラボテのF2雑種については、昨年度に作出した個体と合わせて約200個体を得ることができた(うち約100個体は現在飼育中)。しかし、RAD-Seqによる分子マーカーの作成は、条件検討に時間がかかっており、まだ行うことができていない。そのため連鎖地図の作製やQTLマッピングにはまだ進めていないのが現状である。今年度は、これらの解析を進めていきたい。2種のタナゴ類の自然集団での交雑頻度については、SNPマーカーを用いた解析を行い、その結果を学会発表することができた。
2016年度は、RAD-Seqによる遺伝マーカーの作成およびヤリタナゴ・アブラボテの種間交雑に基づく連鎖地図の作製、複数の形態形質に着目したQTLマッピングを行う予定である。また、解析を行うF2雑種の検体数はさらに増やす予定である(100個体程度)。2種の脳で発現している遺伝子の網羅的比較については、2014, 2015年度の成果を合わせて、種間交雑がタナゴ類の進化に及ぼす影響を評価し、成果を論文化して今年度中の投稿を目指す。アブラボテ全ゲノムの解読についても、データの詳細な解析を行い、今年度中の論文投稿を目指す。
次世代シーケンシングの受託解析の費用を翌年度に持ち越したため。
次世代シーケンス受託解析(RAD-Seq)を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Evolutionary Biology
巻: 28 ページ: 1103-1118
doi: 10.1111/jeb.12634