小笠原諸島は東京から南に約1000km離れた孤立した海洋島であり、海洋生物においても遺伝的な隔離が存在することが強く示唆されている。2008年から2010年にかけて、小笠原諸島近海30m以深において総計136地点におよぶドレッジ調査を試み、60地点でカニ類が採集された。得られたカニ類について分類学的研究を行ったところ、16科73種に分類され、そのうち3種を新種として記載し、5日本新記録を含む42小笠原諸島新記録種を記載した。本研究では先行調査例がほとんどないSCUBA潜水によって浅海域のカニ類相を明らかにし、小笠原諸島産カニ類のモノグラフを完成させることを主目的とする。また、得られた標本のDNAバーコードを網羅的に調べることにより、小笠原諸島における遺伝的隔離を検証し、隠蔽種を探索する。
2016年度は母島列島周辺海域において計11地点で潜水調査を行い、約280個体のカニ類標本を得た。現在、得られた標本に基づいて分類学的研究を施している途上であるが、これまでに18科58属69種のタクサを認識している。この中で特筆すべきものとして、ヤワラガニ科の1未記載種、オウギガニ科の1未記載種があり、新種記載論文を準備中である。また、サンゴガニ科のアラメサンゴガニに隠蔽種が存在することがDNAバーコードにより明らかになった。他には、ヒシガニ科の未記載種と思われていたタクサは既知種の2次性徴による形態変異であること、オウギガニ科のルリモンガニには多紋型と少紋型の2型が見られるがこれらは種内の色彩変異であることが、DNAバーコードにより明らかになった。
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