研究課題/領域番号 |
25840149
|
研究機関 | 神奈川県立生命の星・地球博物館 |
研究代表者 |
折原 貴道 神奈川県立生命の星・地球博物館, 企画情報部, 学芸員 (30614945)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 菌類 / 分類学 / 地下生菌 / シクエストレート菌 / 生物地理学 / 平行進化 |
研究実績の概要 |
本研究は、島嶼間もしくは島嶼・大陸間に分断分布する地下生きのこ類の遺伝的分化に着目し、それらと海峡形成年代の情報とリンクさせることにより、きのこ類の地下生化がいつ、どこで、どのような環境で生じたのかを解明することを最終的な目的としている。平成26年度は、前年度に引き続き島嶼及びその周辺域でのサンプリングと、解析のベースとなるDNAシーケンスデータの拡充に努めた。野外調査は南西諸島のほか、八丈島、利尻島、北海道、対馬など、国内の広範なエリアで実施した。さらに、8月には研究協力者のサポートのもと、中国雲南省にて地下生菌および類縁の地上性きのこ類の調査を実施した。 DNA複数領域による分子系統解析の結果、特にホシミノタマタケ属Parcaea 亜属の地下生菌において、南西諸島における著しい遺伝的分化が生じていることが明らかになった。しかし、地下生菌のいくつかの系統では、地理的分断が生じている島嶼域とその周辺域の標本間で明瞭な分化が見られないものも確認され、地理的分断による系統的な分化の情報を、分岐年代推定のキャリブレーションポイントとして用いるためには、研究開始当初の想定よりも慎重な検討が必要であることが明らかになった。 研究成果の発表は、菌類学でもっとも大規模な国際大会であるInternational Mycological Congress 10(タイ、バンコク)のほか、国内の複数の大会、シンポジウムなどでも行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
供試標本およびデータ収集については、国内外での複数地域からのサンプルを採集し、解析用DNAデータもほぼ順調に得られている。また、研究成果は国内外での学会やシンポジウムにおいて発表しており、本研究による成果の一部は現在論文として投稿中である。本研究の最終目的である、地下生菌の地下生化の起源の解明に関するメインの解析については、研究開始当初の想定よりも条件の設定が困難であることが明らかになってきており、十分に進展していない。本年度は本研究の総括として、これまでに得られたデータを基に、上記のメイン解析に本格的に取り組んでゆきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに調査を実施できなかった島嶼域のほか、追加調査が必要と考えられる地域での補足的な標本サンプリングを実施する。また、これまでに収集した菌類標本からのDNA複数領域のデータ取得をさらに進める予定である。現在はホシミノタマタケ属をはじめとする、担子菌類イグチ目イグチ科の地下生菌を解析対象の中心としているが、それ以外のグループの地下生菌(ショウロ属など)についても分子系統解析を準備中である。 研究成果の公表については、上述のように、地理的分断が生じている島嶼域とその周辺域の標本間で明瞭な分化が見られない地下生菌も確認されており、研究開始当初想定していた、島嶼域とその周辺域に共通分布する地下生菌の系統的分化を分岐年代推定のキャリブレーションポイントとして利用する方法は、容易ではないと考えられる。地下生菌の進化の起源について、本手法による解明が困難と判断された場合、これまで科学的知見のほとんどない、島嶼域における地下生菌の系統とその多様化について、主要成果としてまとめてゆくことも想定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初の計画で予定されていたいくつかの野外調査について、研究協力者からの旅費支給により実施することとなったため、結果的に残額が生じた。また、購入予定であった系統解析用機器の購入が先送りになったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
主に、分子実験とデータ解析の補助にかかる人件費および解析費用として用いる予定である。また、残額は分子系統解析に必要な電子機器(PC等)の購入に充てる予定である。
|