研究実績の概要 |
平成27年度は、これまでの野外調査により得られた標本からのDNAシーケンスデータの拡充および南西諸島、伊豆諸島などにおける補足的な野外調査を集中的に行った。琉球列島をはじめとする島嶼域と日本本土に分断分布する地下生菌の種は、担子菌門イグチ目イグチ科に特に多く含まれることが確認されたため、解析の主要な対象をこれらの地下生菌および近縁の地上生菌に絞ることとした。上述の分断分布を示すイグチ科地下生菌は3属(Octaviania、Rossbeevera、および新属Turmalinea)11系統確認され、そのうちの7系統については、琉球列島の海峡形成と対応した種内レベル、もしくは姉妹種レベルの系統的分化が核DNAの複数領域において確認されたが、分化の程度は一定でなかった。残りの4系統については、明瞭な遺伝的分化がみられないか、島嶼形成史とは一致しない分化パターンを示した。一方、それらの地下生菌に近縁な地上生菌(Leccinellum 属菌)についても、2系統が同様の分断分布を示したが、種内分化の程度は極めて小さく、解析に用いたいずれのDNA領域においても、明瞭な分断分布の影響は認められなかった。以上の点から、島嶼域における、海峡形成による地理的分断と対応する地下生菌の種分化は確認されたものの、その遺伝的情報を分岐年代推定のキャリブレーション・ポイントとして利用することは、現状では困難であると判断した。なお、本研究を進める過程で、イグチ科地下生菌の新属Turmalinea や複数の新種、日本新産属Chamonixia 等を記載発表した(Orihara et al., Persoonia 37:173-198, 2016; Mycoscience 57:58-63, 2016)。さらに、少なくとも8つのイグチ科地下生菌未記載種が新たに確認され、今後順次新分類群の記載を行う予定である。
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