カメムシ目トコジラミ上科における一般的な交尾様式に「外傷性受精」が知られているが、その進化的起源に迫る情報はほとんどない。本研究は、その特異的な交尾様式が普遍的に見られるトコジラミ上科を対象として、外傷性受精に関わる雌雄交尾器の機能と構造を属・種レベルで把握し、分子と形態による系統仮説に基づいて、外傷性受精の進化パターンを考察しようとするものである。最終年度である27年度は、前年度に引き続き分子系統解析ならびに実験用の新鮮な個体の追加のため、国内外にて野外調査を行った。2016年6月にミャンマー南部に赴き、族レベルで材料が不足していたアシブトハナカメムシ族とホソナガハナカメムシ族の種の確保に主眼をおき、それぞれXylocoris属(Arrostelus亜属)とScolopocelis属の種を採集した。これらの新鮮な個体に基づき、雌の副交尾器構造の観察を行った結果、Xylocoris属Arrostelus亜属では他の亜属と異なり、spermalegeの消失が観察された。この状態はトコジラミ科の原始的な一群やケシハナカメムシ属の一部などに似るが、前年度に得られた分子系統樹から、本上科内のさまざまなクレードで独立に生じることが示唆された。Scoloposcelis属では、雌の副交尾器の構造がハナカメムシ族のそれと酷似していた。しかしながら、分子系統樹上ではハナカメムシ族とホソナガハナカメムシ族はかなり遠縁のクレードに分かれた。雌雄交尾器構造から推察すると、両族は共通の祖先に由来することが強く示唆されることから、さらなる解析が必要と考えられた。なお、形態情報に基づく系統解析が完了していないため、分子とともにさらにデータを追加するなどして頑健な系統仮説の構築に努めたい。
|