研究課題/領域番号 |
25840152
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 祐一 沖縄科学技術大学院大学, 海洋生態物理学ユニット, 研究員 (50581708)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子流動 / 遺伝的多様性 / 隠蔽種 / マイクロサテライト / 南西諸島 / 保全遺伝学 / クローン |
研究実績の概要 |
熱帯・亜熱帯域の沿岸生態系においてはサンゴ礁などの生物多様性豊かな景観が保持されているが、近年の地域規模・地球規模の撹乱によりサンゴなどの海産生物の生息数の減少が日本の南西諸島を含む世界各地で報告されている。本研究では、サンゴ礁を構成するサンゴの遺伝的背景からどのように個体群が維持されているかを評価して、南西諸島の沿岸生態系の保全に必要な情報を得ることを目的とした。
幼生保育型のトゲサンゴは核マイクロサテライト解析の結果から、少なくとも3つのクレードに分類されることが示されたが、これはミトコンドリアDNAのタイプと一致することが新たに分かった。さらに分子系統樹上では、3つのクレードのうち2つがフトトゲサンゴに一致することも判明した。一方、フトトゲサンゴのクレードの1つとトゲサンゴは遺伝的多様性の減少がみられ、同系交配や自家受精の可能性も示唆された。
南西諸島内の3地点、奄美国直(28群体)、沖縄残波(89群体)、宮古上野(48群体)における放卵放精型のアザミサンゴのスモールスケールでのミトコンドリアタイプとクローンの分布において、地点間で異なるパターンが見られた。国直では28群体中Lタイプが16群体、Sタイプが12群体で、LタイプとSタイプが地点内で同所的に分布していたものの、クローンがなく、生息する群体がそれぞれ異なる遺伝子型を保有していた。残波では89群体中Lタイプが28群体、Sタイプが61群体で、国直同様にLタイプとSタイプが同所的に広がっていたが、クローンが広範囲に広がっていた。一方、上野の48群体のうちLタイプが20群体、Sタイプが26群体、L+タイプが2群体でクローンの広がりも広範囲であったが、国直や残波と異なりLタイプとSタイプの地点内分布が偏っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の所属変更による影響で、依然として当初の計画と比較して遅れが生じている。また、試料採取候補地に対象種が健全な状態で生育していない場合があったため、および採取した試料に未記載と考えられる別種が含まれていたために当初と異なる解析が必要となったため、計画を見直したことも遅れの要因である。補助事業期間延長承認申請を行っており、平成28年度に遅れた分の研究を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
南西諸島のトゲサンゴは遺伝的に少なくとも3つのタイプに分けられ、今後のトゲサンゴ属の分類を再検討する必要がある。加えて、ミトコンドリアDNA Control Regionに着目するだけでは検出できないタイプも検出される可能性がある。今後は、種多様性の適切な評価を目的とした、分子系統解析に理想的な遺伝子座の探索も行われるべきである。
スモールスケール解析において、アザミサンゴは破片分散によると思われるクローン群体の分布パターンが地点によって異なることがわかった。しかし、アザミサンゴ3地点のみでの結果であるため、さらに対象種や地点数を増やすことで包括的なスモールスケール解析を可能にすることが適切な個体群の将来予測にも結びつくであろう。また、今後は群体間の距離と近縁度の比較を行うことで地点内での幼生分散の平均的な範囲を予測することも可能となる。また、地点によってはタイプ間で住み分けがされていることも判明した。住み分けは環境による影響と考えられるが、個体群形成過程で偶然生じた可能性もあり、より詳細な評価を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅れにより、当初の計画を予定通りに実施できなかったため。 補助事業期間延長承認申請を行い承認されたため、予算を次年度に使用して遅れた分の研究を行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
スモールスケール解析として、地点内のサンゴ個体群の近縁度を評価する。 そのため、遺伝マーカーによる解析を行うため主に消耗品費での使用を予定している。
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