水生植物オオササエビモは,ヒルムシロ属のヒロハノエビモとササバモを両親種とする自然雑種で琵琶湖に多産する.これまでの研究で,オオササエビモの両親種のうち,ササバモは夏の高水温への馴化により,高温耐性を増大させるが,ヒロハノエビモはそのような能力を示さないことが明らかになった.本研究ではオオササエビモを解析し,高温耐性が対照的な両親種からどのように形質を受け継いでいるかを検討した. はじめにクロロフィル・バイオアッセイ法により高温耐性を測定した.人口雑種の高温耐性は,馴化処理を行う前は両親種に比べ低かったが,馴化処理を行うと両親の中間か,ヒロハノエビモと同じ程度まで耐性は増大した.同様の馴化条件下で,自然雑種の高温耐性を測定したところ,両親種の中間的か,いずれか一方の親種と同程度だった.自然雑種では高温耐性が低いヒロハノエビモと同程度の耐性を示す個体の割合が多い.琵琶湖の水温分布は一年を通して低いことから,オオササエビモの比較的低い高温耐性は,琵琶湖での生育に適していると考えられた. 本雑種では,交配の方向性による母系効果の存在が予想されていたため,研究では特に高温耐性の程度と母系統の関係について検討した.オオササエビモの母系との間の対応は高温耐性については認められなかったが,高温ストレス時に現れる障害の程度(高温ストレスで葉色が褐変する)について関連がみつかった. 自然雑種の環境ストレスへの応答性を明らかにすることは,その生態的特性を理解する上で重要であるが,従来,自然雑種のストレス耐性は研究されていない.本研究は,琵琶湖に多産する自然雑種オオササエビモの高温耐性とその多様化状態を解明した点で意義がある.
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