研究課題/領域番号 |
25840159
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
畑 啓生 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (00510512)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生態学 / 進化 / 種間関係 / 藻類 / 魚 |
研究実績の概要 |
アフリカタンガニイカ湖に生息する藻食魚をモデルとし、その藻類食への適応と、多様化が多種共存を可能としているという仮説の検証を目的とする。アフリカ大地溝帯の古代湖群では、シクリッド科魚類の顕著な適応放散がみられる。藻類食魚もTropheini族をはじめ4つの族で独立に進化し、著しい多様化が見られる。これらシクリッドはサンゴ礁のスズメダイ科とは姉妹群にあたり、かつ独立に藻類食を進化させており、これらの系を比較することで藻類食の進化について一般化して論じることが可能となる。 タンガニイカ湖で、2010年に行った藻食シクリッド類の野外観察と、採集した胃内容となわばり内の藻類のサンプルを用い、次世代シーケンサーを用いたメタゲノミクス解析を行ったところ、これら藻食シクリッドでは、摘み取り食からすき取り食が進化して両者が多様化し、摘み取り食者種間では利用する底質と水深を違え、すき取り食者種間では水深を違えていることが分かった。異なる水深帯のなわばり内に成立する藻類群落は異なり、さらにシクリッドが藻類を選択的に利用することで、種ごとに異なった藻類を主な餌としていた。同様のサンプルについて炭素、窒素安定同位体比解析を行ったところ、なわばり内の藻類群落の炭素安定同位体比の値は水深が深くなるほど低くなることが分かり、魚体の値はなわばり内の藻類群落の値と強い相関があり、種間で異なる水深帯の光合成産物を主に利用していることが分かった。このように、藻食シクリッドは、適応放散の過程でまず摂食様式を多様化させ、さらに生息場所を特殊化させて異なる餌ニッチへの分化を成し遂げ、一つの岩礁上での多種共存が可能となっていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、なわばり性藻食魚をモデルとし、その藻食性への様々な適応が、藻食魚の多種共存を可能にしているという仮説の検証を目的としている。今年度はアフリカ東部、大地溝帯に位置するタンガニイカ湖の藻食性シクリッド科魚類について、自身が2010年にザンビア国ムプルング周辺、カセンガポイントで16種のシクリッドを対象に行った現地調査と採集で得たデータとサンプルを用いて、次世代シーケンサーを用いたメタゲノミクス解析と、炭素、窒素安定同位体比解析を行った。それにより、藻食シクリッドでは同一の生態型を持つ複数種はそれぞれ数mの範囲の生息水深帯に特殊化しており、それぞれの生息水深の生産物を利用して分化し、共存していることが明らかになった。これらの結果をそれぞれの論文にまとめ、一報は学術誌に発表、もう一報も学術誌に受理されることができた。
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今後の研究の推進方策 |
タンガニイカ湖のシクリッド科魚類と、太平洋のスズメダイ類について、引き続き藻類食への様々な適応と、それが可能とする多種共存のメカニズムについての研究を続ける。太平洋のスズメダイ類については、藻園管理行動の記録、解析を行い、またなわばり内のサンゴや藻類の組成を調べ、藻園の利用・管理行動の種間の多様性と、種内における地理的変異について明らかにしていく。 タンガニイカ湖のシクリッド類については、生息水深の分化についてさらにデータ解析を進めるとともに、シクリッド類の頭部形態や顎骨格形態、消化管長など、機能形態について幾何学的形態計測法などを用いて定量化して比較し、藻類食への適応と多様化の過程で、シクリッド種にどのような適応が見られ、どのように生息する水深帯を分化しているのかを明らかにする。 最終的にサンゴ礁のスズメダイとタンガニイカ湖のシクリッドという二つの独立に藻類食を獲得した系の比較を行い、水域の一次生産者、藻類と、それを食べる藻食魚との関係性のネットワークにおける相違点と共通点を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子解析に必要な試薬の購入には足りない予算残額が出たため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の予算と合わせて消耗品の購入に使用する。
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