社会性を持つ寄生虫・二生吸虫は、繁殖・兵隊の2つのカーストを持ち役割分担をしながら巻貝の体内で生活している。この2つのカーストの比率がどのような要因により決まっているのかを明らかにするために生態学的研究を行った。昨年度までは、よりシンプルな実験系の確立を目指して室内での飼育実験に取り組んできた。しかしながら、二生吸虫を宿主の体内から出し、培養液中で成長・繁殖させることは予想以上に困難であることが分かったので、今年度は野外観察を中心にして、外敵との競争圧の違いが二生吸虫のカースト比率に与える影響を調べた。始めに、複数の地点で二生吸虫の寄生率を調べることで寄生率の大きく異なる地点を特定した。二生吸虫の寄生率が高い地点は競争相手が多く、兵隊カーストの割合が高くなることが予想される。しかし予想に反して、競争圧の強さに関わらず、兵隊と繁殖カーストの割合はほとんど変化しないという結果が得られた。また、実験に用いてきた二生吸虫の1種(Philophthalmid sp. I)がホソウミニナとウミニナという異なる2種類の宿主に寄生することが分かったので、遭遇する外敵の種類が異なる2つの宿主内における二生吸虫のカースト比率を調査した。しかしながら、結果は同様に宿主の違いに関わらずカースト比率はほぼ一定であることが明らかとなった。これらの結果から、二生吸虫のカースト比率は、外敵の影響をあまり受けていない可能性が高いことが分かった。カースト比率は本研究で検討した要因以外にも餌の量やコロニー内の個体密度、そして遺伝的要因によっても大きな影響を受けることが考えられる。このような要因を検討するためには飼育実験の確立が肝要である。したがって、研究をさらに発展させるためには、二生吸虫の培養条件をさらに検討することが必要であると考えられる。
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