研究課題
雄が雌へ提供する精子量を節約することで精子を効率的に使用するという現象の解明は、雄による雌の選り好みという性淘汰研究における重要なテーマである。一般に精子は卵に比べてエネルギーや時間といった生産コストが安いため、雄は有り余るほどの精子を使って多くの雌と繁殖する機会を増やそうとする。その結果、雄同士で雌を巡って闘争が起こるのに対して、雌は慎重により良い雄を選好するという違いが生じる。しかし、実際には精子の生産にかかるコストや時間はゼロではなく、雄が雌へ提供する精子量を制限することで精子を経済的に使用していることが魚類を含むさまざまな動物で報告されつつある。しかし、繁殖回数の多寡と精子節約の関係について明らかになっていない。サケは産卵のため河川に遡上すると摂餌を止め、体内に蓄えられたエネルギーだけで産卵しその一生を終える一回繁殖型の魚類である。本研究ではバイオロギング手法を用いて繁殖後に死亡するサケの雄が雌に提供する精子量を調節する現象を実証し、その生態学的な適応意義を解明することを目的とした。放精時の体側筋の収縮により生じる振動を装着した小型加速度計で記録し、放精量の指標として2つの実験を行った。1)振動時間と放精量の相関の検証、2)雌の大きさが放精量に与える影響について、標津川河口で捕獲されたシロザケを用いて実験を行った。放精量はシロザケの排精腔にゴム製の袋を装着して採取し、吸光度計を用いて定量した。放精の振動時間と量には正の相関性がみられた。また、放精の振動時間から推定された放精量は、雌の相対的な大きさと正の相関がみられた。以上より、シロザケの雄は大きな雌に対してより多く放精していることが示され、雄は大きさに合わせて放精量を調整していることが示唆された。
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比較生理生化学
巻: 31 ページ: 113-118