本申請研究は、異なる条件下のニホンザルを対象に、腸内細菌叢の形成過程および伝播メカニズムの解明を目的とするものであった。具体的な研究目的は、(1) 母子間の類似性の解明、(2) 母子分離によってもたらされる影響の評価、(3) 採食内容と腸内細菌における関連性の検証の3点であった。今年度は、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析の実験系を確立に取り組み、リード・クオリティ値ともに非常に良好なデータを得られるようになった。 (1) については、所属機関で個別飼育するニホンザル母子を対象とした実験を予定していた。しかし、当初から懸念していた以上に、母親に抱かれたまま排泄する新生児からの糞サンプリングが困難であったことに加え、実験個体が死亡するという想定外の出来事が起こったため、必要なサンプル数を採取することができなかった。そこで、動物園で飼育されるドゥクラングールの母子での実験に切り替えた。途中から新生児が人工哺育になったことから、(2) についても検証できると考える。母子からのサンプリングはすでに終了しており、現在はデータ解析を進めているところである。(3) については、屋久島の野生ニホンザルを対象とし、12か月に渡る詳細な採食データをもとに、採食内容が腸内細菌叢にもたらす影響を検証するなど、当初の予定以上の成果を収めることができた。この結果は、国内外の学会でも発表し、現在は論文を執筆中である。 以上のことから、総合的には本年度の研究はおおむね順調に進展したといえる。
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