霊長類の骨格の中で、踵骨は比較的よく機能形態学的・古生物学的研究がされている。しかし、現生の踵骨サイズの種内変異を詳しく調べた研究はまだ少ないので,化石の踵骨の変異を考えるときの基準に乏しかった。本研究の目的は,化石踵骨の論理的な同定・分類を可能にし、化石霊長類やその他の化石哺乳類の古生態や古環境のような発展的研究の進展に活かすことである。昨年度までに、踵骨化石からその化石霊長類の体重を推定する式を導き出し、その式の検討をおこなった。 最終年度の三年目である本年度は、霊長類の踵骨データをさらに増大し、霊長類以外の哺乳類の踵骨データの取得(サイズの計測・写真撮影・モールドおよびキャスト作成)もおこなった。そして、様々な哺乳類種を用いた踵骨サイズと体サイズとの関連性の検討した。標本は哺乳類の成獣43種69個体で,体重は18グラムから1.4トンまでの幅がある。体重値は個々の標本の体重データを使用した。計測部位はこれまでの研究でよりすぐった12箇所である。自然対数変換したそれぞれの計測値と動物の体重との相関関係を、ステップワイズ重回帰分析により検討した。また、化石哺乳類類の踵骨に関する予備的検討もおこなった。 ステップワイズ重回帰分析の結果、様々な哺乳類を対象とした場合、「後距骨関節面の幅」と「後方部の枝部の長さ」の二つのパラメーターを使用するのが最も妥当であった。昨年度の結果で、霊長類のみを対象とした場合は「後距骨関節面の幅」と「後距骨関節面の部分の高さ」が最も妥当であっので、「後距骨関節面の幅」、つまり、距骨と密接に接続する部位、が、哺乳類の踵骨の中では体重推定にもっとも有効であることが推定できた。これは、哺乳類の踵骨の中で、この部分が、普通に立っている状況で体重を支えている割合が高いことを示唆している。
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