アサガオの花弁に蓄積するアントシアニン色素は、カフェ酸やグルコースが複数付加した複雑な側鎖構造を持ち花弁の青色化に重要な働きを持つ。アサガオ花色変異体の色素解析の結果から、不完全な側鎖構造を持ったアントシアニン色素の蓄積と変異体の花色との関連が示されている。アサガオ花色変異体の内、パステル調の花を咲かせるdingy変異体は、カフェ酸の付加が欠落した不完全なアントシアニン色素を蓄積している。このdingy変異体では、アントシアニンにカフェ酸を付加するアシル基転移酵素をコードする遺伝子に何らかの変異が生じていると仮定し研究を行った。 本研究初年度の平成25年度は、アサガオで発現する31種類のアシル基転移酵素遺伝子のcDNAを単離後、アサガオ花色遺伝子の発現を調節するMYB及びWDR転写制御因子によって遺伝子発現が制御されるアシル基転移酵素遺伝子を特定した。続く平成26年度には、この候補遺伝子の花弁特異的な発現様式とゲノム構造を明らかにした。 研究の最終年度となる平成27年度は、dingy変異を明らかにするため、複数のdingy変異体からゲノムDNAを抽出し、Dingy遺伝子の候補となるこのアシル基転移酵素遺伝子のゲノム構造の比較を行った。その結果、dingy変異体にはTpn15、Tpn16と名付けたDNA型のトランスポゾンが挿入した2つの遺伝子座が存在していることを明らかにした。Tpn15はエキソン中、Tpn16はイントロン中に挿入しており、いずれも機能欠損型の突然変異であることが予想された。dingy変異体と野生型とのF2個体の解析からdingy変異の表現型と遺伝子型の同時分離が確認されたことから、本研究で単離、解析を行ったアシル基転移酵素遺伝子はアサガオの花色発現に重要な働きをする新規な花色遺伝子であることが示された。
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