研究課題/領域番号 |
25850035
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
井上 広光 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 カンキツ研究領域, 主任研究員 (80414663)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DNAバーコーディング / 日本産キジラミ類 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、これまでに収集・蓄積してきた日本産キジラミ上科昆虫の未解析サンプルの整理・同定を進めるとともに、新たに北海道地方、信州地方、近畿地方、および鹿児島県甑島列島等の九州各地で採集調査を行った。26年度に新たに入手した21種を含めて、これまでの収集済みサンプルは33属175種(うち55種は国内未記録あるいは未記載種)となった。これは日本産キジラミ類のすべての科にわたり、既知属の約97%、既知種の約76%をカバーする。26年度末までに1155個体のDNA抽出を完了し、30属120種(うち34種は未記録・未記載種)の618個体について、DNAバーコーディング領域であるミトコンドリアCOI遺伝子(5’末端側714塩基)の配列を決定した。解析の結果、日本産キジラミ類のCOI遺伝子の種内変異は小さく、同一種内の地域個体群間の遺伝的距離(塩基置換率)は平均で約0.1%、最大でも1%(7塩基程度の変異に相当)以内に収まった。その一方で、同属内の種間変異は3.2~29.0%(23~207塩基程度に相当)、平均で約16%と、種内変異よりも十分に大きかった。したがって、これまでに解析済みの範囲内では、COI遺伝子の塩基配列情報を利用して日本産キジラミ類の種の識別が可能であると考えられた。しかしながら、トゲキジラミ(タデキジラミ科)とグミキジラミ(キジラミ科)については、種内の地域個体群間でそれぞれ最大で6.1%および3.2%の変異があり、形態分類に基づくこれらの種内に隠蔽種が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の達成目標は、未収集種のサンプルを収集するともに、前年度までにDNA抽出と塩基配列解析が済んでいないサンプルの解析を行うこと、そしてDNAバーコードが形態種と1対1対応するかどうかを検証し、キジラミ類の種の識別におけるDNAバーコーディングの有効性を明らかにすることであった。それに対して、26年度は新規に21種のサンプルを収集し、これまでに収集した175種すべてについてDNAを抽出、うち120種のミトコンドリアCOI遺伝子の塩基配列を決定した。加えて、解析済みのほとんどの種で、COI遺伝子の塩基配列情報を用いて種の識別が可能であることを明らかにした。例外的に2種については、種内変異とするにはやや大きな塩基置換率が見られたが、これは想定の範囲内であり、今後はこれらの種で形態による分類の見直しを慎重に進めることとする。よって、全体の研究目的に照らして順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度までに収集できていない種のサンプルを入手に努めるとともに、サンプル収集済みながら塩基配列が未決定の種については新規にプライマーを設計するなどしてDNAバーコード情報の解析を進める。また、採集が難しいことから新鮮なDNA解析用サンプルが入手できていない種については、乾燥標本からのDNAの抽出と塩基配列の解析を試みる。得られたDNAバーコード情報は世界的な塩基配列情報データベースに登録するとともに、キジラミ類のDNAバーコーディングの有用性に関する論文を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における塩基配列の解析は外部業者への委託で行う予定である。26年度までに収集済みのすべての種についてはDNA抽出が完了したが、主に使用しているPCRプライマーではCOI遺伝子を増幅できない種があり、塩基配列の決定に至っていない種が全体の3割程度残されている。このため、塩基配列の委託解析への充当を予定していた経費の一部が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度未使用額については、塩基配列未解析の種についてPCRプライマーを設計することで、26年度に予定していた外部委託による塩基配列の解析を27年度の早期に実行する。27年度分については、未収集種の採集調査を北海道、東北地方、南西諸島等で行うための旅費に充当するほか、得られたサンプルの解析等の実験補助のために雇用する契約職員の賃金、塩基配列の外部業者への委託解析に充てる。
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