研究実績の概要 |
平成27年度は、北海道、東北地方等で調査を行ったほか、DNA抽出と塩基配列解析が済んでいない種の解析を進めた。27年度に新たに入手した3種を含めて、収集済みの種は日本産既知種121種および日本未記録種(未記載種含む)59種の計7科33属180種となった。これは、日本産キジラミ類のすべての科にわたり、既知属の約97%、既知種の約77%に当たる。収集済み全種の1,886個体について非破壊的にDNAを抽出し、外骨格は永久プレパラート標本とした上で、6科30属123種(うち35種は日本未記録種・未記載種)の計895個体についてDNAバーコーディング領域であるミトコンドリアCOI遺伝子の配列を決定した。これは日本産既知種の約56%をカバーする。解析の結果、COI領域714塩基の種内変異(塩基置換率)は平均0.1%、ほとんどの種で最大でも1%(約7塩基の変異に相当)以内に収まり、同属内における種間変異の範囲3~29%(約23~207塩基程度に相当;平均約16%)よりも十分に小さいため、バーコード領域で日本産キジラミ類の種の識別が可能であることがわかった。しかしながら、グミキジラミ(キジラミ科)については、北海道・東北地方産と九州本土産の地域個体群間で平均約2.7%、最大で約3.4%の変異があり、さらに本州・九州産と鹿児島県甑島列島産との間では平均約4.3%、最大約4.5%の変異が見られたことから、本種内に隠蔽種が存在することが示唆された。また、新鮮なDNA解析用サンプルの入手が困難な種の対策として、古い乾燥標本を使用した解析を試みた。採集から1、5および16年が経過した乾燥標本から、液浸標本と同様の方法でDNAを抽出し、PCRと塩基配列解析が可能か検討したが、解析に成功した乾燥標本は採集から1年が経過した場合のみで、液浸標本と同様の手法では古い乾燥標本からの解析は難しいと考えられた。
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