土壌に蓄積する有機態リン(P)の大部分を占めるフィチン酸(IHP)は、酸性条件では鉄(Fe)やアルミニウムと強固に結合するため、Fe-IHPから無機態Pを放出する微生物はこれまで報告されていない。しかし、前年度までの試験でアーバスキュラー菌根(AM)菌がFe-IHP由来のPを宿主植物に輸送することから、Fe-IHP周辺で細菌によるFe-IHP分解が起こる可能性を見いだし、選択培地を用いて優占するIHP資化菌(Sphingomonas属細菌、 Arthrobacter属細菌)を分離していた。本年度は、これら分離株のFe-IHP分解能の評価を行った。 Fe-IHPを唯一のP源とする液体培地にIHP資化菌を単独で接種し、25℃暗所で7日間震とう培養した。培養後、培地上清に遊離した無機態P濃度を測定したところ、いずれの培養物でも非接種区と比較して無機態P濃度が上昇し、接種細菌によるFe-IHP分解が示された。培地pHは3.0程度に低下していたため、酸性条件でIHPをFe-IHPから遊離するメカニズムが存在すると考えられた。 IHPはFeなどの金属と強く結合するキレート物質であるが、微生物が産生する強力なFeキレート物質としてシデロフォアが知られている。シデロフォアの中にはIHPよりもFeとの親和性が高いものも存在するため、微生物が産生するシデロフォアによってFe-IHPのFeがキレートされ、その結果遊離したIHPが分解されることが疑われた。そこで、Sphingomonas属細菌とArthrobacter属細菌の菌体懸濁液とFe-IHPを含むバッファーを短時間(4時間)反応させ、Fe-IHPから遊離する無機態P濃度の変化からこれら菌体培養液にFe-IHP分解活性があることを確認した。この時、シデロフォアの一種であるデスフェリオキサミンを添加したところ、Arthrobacter属細菌の菌体懸濁液ではFe-IHP分解活性の増加が認められた。このことから、Arthrobacter属細菌によるFe-IHP分解がシデロファオにより促進されることが示された。
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