福島原発事故後、放射性セシウム(RCs)によって汚染された農地では、RCsの作物吸収量が土壌の汚染濃度に必ずしも比例しないことが明らかとなり、その原因解明が求められてきた。主な原因の一つとして考えられるのが、土壌ごとのRCsを吸着する能力の違いだが、この能力を規定する土壌因子については諸説あり、知見の整理が不十分な状態であった。特に、RCs吸着能が高い鉱物を含まないはずの、火山灰から成る土壌(黒ボク土)が様々なRCs吸着能が発現する要因については、不明なままであった。そこで本研究では、日本の黒ボク土がRCs吸着能を発現するに至った土壌生成論的な背景を明らかにすることを目的とした。 H25年度には、北海道から九州にかけて分布する典型的なアロフェン質黒ボク土地帯の中から23地点の農耕地土壌を試料として選び、そこから分画したシルト粒子について、RCs吸着能の指標である放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)と鉱物組成の関係解析を行った。その結果、RIPと雲母および石英の含量との間に高い正の相関関係が示されただけでなく、石英の酸素同位体比が火山岩のものよりも明らかに高く、中国黄土高原の石英粒子のものと類似であったことから、日本のアロフェン質黒ボク土のRCs吸着能は風成塵起源の雲母の混入量によって規定されていることが明らかになった。 H26年度には、H25年度4月から隔月で分画採取した大気降下物のうち、シルト粒子を対象に同様の解析を行った。その結果、RIPと雲母含量との間に正の相関関係が示された一方で、黒ボク土中のシルト粒子と比べると雲母含量に対するRIPの値が大きいことが分かった。このことは、風成塵中の雲母のRCs吸着能が、黒ボク土が生成する過程で低下したことを示唆している。その原因については今後の検証が必要であるが、土壌生成に伴い雲母の層間にヒドロキシアルミニウム重合体が固定された可能性が高い。
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