ゲノムメチル化が微生物のトランスクリプトームと形質に影響を与える仕組みを解明し、得られた知見を利用して、細胞の表現型を操作するエピゲノム育種の実現可能性を検討した。前年度までに得られた、ピロリ菌のメチル化酵素遺伝子ノックアウト株のトランスクリプトームと基本的な適応形質の解析結果から、あるII 型メチル化酵素遺伝子がトランスクリプトームと酸化ストレス耐性などの形質に影響を与えていることが示唆されていた。最終年度において、構築した遺伝子ノックアウト株にII型メチル化酵素遺伝子を再び導入し、構築株の表現型を解析したところ、ピロリ菌の酸化ストレス耐性が導入した遺伝子に依存して向上することが判明した。これにより、特定のII型メチル化酵素がピロリ菌の適応形質に寄与していることを証明できた。遺伝子ノックアウト株のトランスクリプトームデータを詳細に解析することで、本II型メチル化酵素が、遺伝子の中でも特に他の制限修飾系の遺伝子発現に影響を与えることが明らかになったが、その機構の解明は今後の課題として残された。大腸菌に可動遺伝因子由来のメチル化酵素を発現させたところ、幾つかの条件で成長パターンに変化が見られた。これはエピゲノム育種実現の可能性を示唆するものである。現在メチル化系導入株や、遺伝子ノックアウト株のメチーローム解読を試みている。そのデータをもとに、1塩基解像度でのメチル化レベルとトランスクリプトーム状態の関係に法則性を見出すことができれば、エピゲノム育種の実現可能性がより一層高まるだろう。
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