研究課題/領域番号 |
25850059
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研究機関 | 別府大学 |
研究代表者 |
林 毅 別府大学, 食物栄養科学部, 准教授 (40399811)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Zymomonas mobilis / 呼吸鎖 / エタノール発酵 / NADH/NAD+ |
研究実績の概要 |
エタノール発酵細菌Zymomonas mobilisの呼吸鎖は奇妙な表現型を示すことが知られている。通常呼吸鎖はNAD(P)Hを起点に電子伝達を行い最後の酸素に電子を渡す。その過程で細胞膜間(原核生物)やミトコンドリア内腔(真核生物)にプロトン勾配を形成し、そのプロトン勾配のエネルギーによりATP合成酵素(複合体V)がATPを合成する。Z. mobilisの呼吸鎖も電子伝達能を有しており、また十分な酵素活性を有するATP合成酵素を有しているにもかかわらず、呼吸鎖でATPを合成しないことが知られている。むしろATP合成酵素は解糖系で合成したATPを分解しているという報告が昨年出された。本研究はこのような一見不要に思えるZ. mobilis呼吸鎖の新規生理機能の解明を目的に研究を行ってきた。昨年までに何らかのストレス耐性にかかわっていることを示唆する研究データが得られた。本年度はさらに詳細に解析した結果、塩耐性にかかわっていることが明らかとなった。呼吸鎖がどのように塩耐性に寄与しているのかを調べるためにメタボローム解析に供した結果、NADH/NAD+で示される細胞内の酸化還元バランスの維持に呼吸鎖が重要な役割を示している可能性が示唆された。そもそもZ. mobilisは強力な解糖系の活動を維持するために大量のNAD+が必要となるが、NADH/NAD+のバランスをNAD+側を大きく傾けることによってそれを維持していることが分かった。塩ストレス下ではそのバランスが崩れてしまい、そのバランスをNAD+側に修復するために、呼吸鎖の特にNADH脱水素酵素(反応:NADH→NAD+)が寄与していることが明らかとなった。まとめるとZ. mobilis呼吸鎖の生理機能としてストレス存在下などでNADH/NAD+のバランスが崩れた際の修復にかかわっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
呼吸鎖の未知のコンポーネントを同定することによるZ. mobili呼吸鎖の完全解明に関しては立ち遅れている。しかしながら新規生理機能解明という本来の大きな目的に関しては、「ストレス存在下などの際のNADH/NAD+のバランスの維持」という、概ねメカニズムを解明することが出来た。この研究課程の中でZ. mobilisの呼吸鎖は嫌気発酵の経路も有している可能性が示唆された。このような現状から今年度中の論文発表が見込める。
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今後の研究の推進方策 |
Z. mobilis呼吸鎖の新規生理機能、「ストレス存在下などの際のNADH/NAD+のバランスの維持」に関して論文を発表したい。一方でいくつかの検討事項も残っている。①呼吸鎖が細胞形態変化を及ぼすメカニズムの解明、②好気呼吸鎖の完全解明、③昨年度に存在が明らかとなった嫌気経路の解明。以上の事項についても解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算使用は予定通り進んでいるが、初年度に一部重複した研究テーマで財団研究費が採択され、同時に(むしろ財団研究費を優先に)使用していったため、当初案より残額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画では予算の計画で見送っていた呼吸鎖欠損株の代謝産物の解析(メタボローム解析)を詳細に解析したい。また奇妙な表現型(極めて遅い増殖能、逆に強いストレス耐性、大きく縮小した細胞形態)を示す呼吸欠損株(RDM-9株)に関してゲノムレベルでの遺伝子変異を調べるために、次世代シーケンサーを用いたゲノム変異箇所の同定を行い、エタノール生産との関係を調べたい。
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