本研究では、反芻動物の第一胃内で繊維分解能力の高いFibrobacter succinogenesを中心とする細菌群集の繊維分解機能を明らかにするとともに、これらが産生している機能性物質の菌群機能への影響を評価した。 網羅的遺伝子発現解析によりF. succinogenesを中心とする細菌群集の繊維分解機能、および菌群間情報伝達に関連している可能性のある物質を探索した。その結果、F. succinogenesでは12種類のエンド型繊維分解酵素の遺伝子発現が顕著であり、繊維分解において酵素分解の中心的役割を担っていることが明らかになった。一方、F. succinogenesの共生菌群は主に可溶性成分の分解酵素が検出されることから、これらは繊維分解を補助的に貢献していることが明らかになった。また、これら繊維分解菌群からは、β-ラクタム系抗菌物質の分解酵素、インドール系物質の産生または応答に関与する遺伝子、および共通の情報伝達物質に合成遺伝子が多く発現していたことから、これらの役割を純菌培養系で評価した。その結果、β-ラクタム環分解酵素を強化するとF. succinogenesの代謝活性が高まること、逆β-ラクタム環分解酵素の阻害物を添加すると、F. succinogenesの代謝活性が顕著に低下し、繊維分解率も低下することが明らかになり、繊維分解菌群がルーメン生態系におけるF. succinogenesの生態的地位の確保に貢献している可能性を示唆した。加えて、インドール系シグナルは繊維分解菌群における発酵産物の生成経路の選択に影響していること、サイクリック-di-GMPは繊維分解機能を刺激する細菌種間情報伝達物質としての働きが限定的であることが明らかになるなど、本研究を通して、F. succinogenesを中心とする繊維分解菌群の生成物質を介した関係の一端を明らかにできた。
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