環境や資源といった問題に微生物を利用してどう取り組むか、これが昨今我々に突きつけられている課題である、それに対する回答の一つが、バイオマス等の再生可能な資源を有用な化学物質に変換する微生物プラットフォームの開発である。しかしながら、大腸菌や酵母といった汎用微生物宿主では発現が困難な遺伝子が存在し、生産可能な天然物には限りがある。よって本研究課題では、汎用宿主に代わりうる宿主として、高い物質生産能と多様な代謝能を有する糸状菌を用いて、植物ホルモン等のテルペノイド化合物生産系の構築に取り組んだ。 まずは、プラットフォームの生産性を容易に評価できるテルペン由来の色素であるb-カロテン生合成遺伝子を導入し、実験系が問題なく機能することを検証した。次いで、微細藻類由来のテルペン化合物であるボツリオコッセン、および植物ホルモンのひとつであるアブシジン酸の生産系構築に取り組んだ。ひとつの栄養要求性マーカーに対し、複数の生合成遺伝子をタンデムに連結したコンストラクトを導入することで、より多くの遺伝子導入が出来るようにした。ボツリオコッセンについては生合成遺伝子のコドンを宿主糸状菌に最適化して導入した。その結果、ボツリオコッセンの生産を検出することができた。生産性向上を目的に、テルペノイド生合成経路の前駆物質供給系の改変にも取り組んだ。 今後、本課題において構築したプラットフォームを用いることで、多様な遺伝子資源からの有用な化学物質への変換研究がさらに促進されることが期待できる。
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