研究課題/領域番号 |
25850067
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩井 伯隆 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (80376938)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | フッ素化合物 / 芳香族代謝 / ロドコッカス属細菌 / 環境微生物 |
研究概要 |
これまでに研究担当者らは、天然には存在しないフッ素化合物、ベンゾトリフルオリド(トリフルオロメチルベンゼン)を分解し、脱フッ素化する微生物としてロドコッカス属細菌を発見した。菌体内にベンゾトリフルオリドが取り込まれることで誘導されるタンパク質の存在を見出し、二次元電気泳動法を用いて、このタンパク質の解析を行った。その結果、イソプロピルベンゼン(クメン)代謝に関わる遺伝子産物と相同性が高いタンパク質が複数誘導されていることが分かった。そこで、平成25年度ではこれらの遺伝子群が本菌に存在するかどうか調べた結果、PCR法によってイソプロピルベンゼン代謝クラスターを構成する遺伝子(代謝遺伝子7種、検出制御遺伝子2種)全ての存在を確認できた。また、これら遺伝子の塩基配列を解析した結果、これまでに報告されているイソプロピルベンゼン代謝系遺伝子群と同じ形のクラスターを形成していることが分かった。一方、タンパク質配列中には幾つかのアミノ酸置換が認められ、この違いがベンゾトリフルオリド認識に関与している可能性が示唆された。つまり、天然に存在しないフッ素化合物に対して、本菌は他の類似構造の化合物代謝系を巧みに変化させて新しい代謝系として機能させている事が明らかとなってきた。 さらに化合物の代謝に直接かかわる遺伝子7種類について、全ての遺伝子を大腸菌の発現ベクターにクローニングし、誘導発現系を用いてタンパク質を発現させることに成功した。タンパク質の可溶性が低いものが複数存在し、酵素精製を進める上で障壁となっている。しかし本来のロドコッカス属細菌でのタンパク質の可溶性と大腸菌での組換え発現系の可溶性が類似した傾向にあることから、可溶性は活性保持の必須条件ではないと考えている。平成26年度には、未精製状態で酵素活性を評価する実験系の構築を計画し、酵素反応の検出を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25度の当初の目的としていたベンゾトリフルオリド代謝系遺伝子産物を用いた、試験管内での反応の再現と追跡については、遺伝子の個々のクローニングと塩基配列の解析およびタンパク質の発現までを達成した。それぞれのタンパク質が組換え体として発現可能であることは実証できた。しかし発現させた組換えタンパク質の中には不溶性のタンパク質も複数含まれ、精製タンパク質を用いた試験管内反応による反応の再現には至っていない。ロドコッカス属細菌内での遺伝子産物の振る舞いと比較して考えると、全ての遺伝子産物の可溶化が酵素活性に必須な条件であるとは思えない。そこで未精製状態の組換えタンパク質による試験管内反応の実施などが今後の検討事項である。 一方、本研究で見出したロドコッカス属細菌は遺伝子工学的手法が確立されておらず、今後の解析を計画する上で形質転換法の確立など、基礎的な遺伝子工学技術の確立が同時進行的に望まれた。そこで、一部研究計画を変更し来年度以降に進める予定であった形質転換技術の確立について本年度に検討した。その結果、培養条件の検討やベクター、電圧条件の検討により、エレクトロポレーション法による形質転換技術を構築することができた。この技術の確立によって、今後本菌で必要となる機能相補実験などが可能となり、研究の大きな進捗が期待できる。 以上の進捗状況を総括して、平成25年度の達成度はおおむね順調であると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
・ベンゾトリフルオリド代謝遺伝子の組換体タンパク質を用いた試験管内反応による反応の再現と実証 平成25年度にクローニングし、タンパク質の発現が確認できたベンゾトリフルオリド代謝遺伝子の組換え体タンパク質について、不溶性のタンパク質が複数含まれていることから、未精製状態でのタンパク質混合液を用いた酵素活性の評価を行う。反応再現に向けての一つのアイデアとして個別の遺伝子産物の発現以外に複合体形成による安定化を加味して、複数遺伝子のオペロン単位での発現も検討し、組換えタンパク質による反応の再現と実証を行う。 ・核磁気共鳴スペクトルにより培養液から検出されたフッ素化合物の精製と構造決定 研究計画書の予定通り平成26年度には、ベンゾトリフルオリドを添加した培養液中でフッ素の核磁気共鳴スペクトルにより検出されたフッ素化合物の解析を進める。これらの中には、イソプロピルベンゼン代謝系から推測されるオレフィン類などの炭化水素系化合物と、それらの化合物では示さないシフト値を示す化合物が見いだされている。これはフッ素化合物の代謝が単純な分解のみに収束しているのではなく、生物機能を利用した新しいフッ素化合物の生成が起きていることを示唆している。そこで、培養液中でフッ素の核磁気共鳴スペクトルにより検出されたフッ素化合物について、溶媒抽出や高速液体クロマトグラフィーを用いて精製し、核磁気共鳴スペクトルで検出されたフッ素化合物の構造の解明を進める。構造解析には、質量分析、二次元NMR、元素分析を行うことで、立体構造を含めた分子構造の解明を行う。これにより、ベンゾトリフルオリド代謝の具体的な中間物が決定できる。また、新しフッ素化合物代謝経路の発見も期待できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
PCR法を用いた遺伝子クローニングや塩基配列解析が大きなトラブルなく順調に進んだ。また試験管内反応の解析による分析用試薬などが予定に比べて消費せずに済んだ。さらに計画を変更して追加した遺伝子工学技術の構築も大きな消耗品の消費に至らなかった。総括して、研究に必要な消耗品費が抑えられたため繰越額が発生した。 次年度研究計画において主となる分析実験に必要な溶媒等の試薬が多く見込まれる可能性があるため、特に大きな計画の変更をせず、繰り越し分を消耗品費に充当する計画を予定している。
|