研究実績の概要 |
研究担当者らは、天然には存在しないフッ素化合物ベンゾトリフルオリド(トリフルオロメチルベンゼン)を分解・脱フッ素化する微生物、ロドコッカス属細菌を発見し、そのフッ素化合物代謝機構について調べてきた。この菌は、イソプロピルベンゼン(クメン)代謝クラスターとよく似た遺伝子群(4反応に関わる代謝遺伝子7種、検出制御遺伝子2種)btf遺伝子を保有し、これらの遺伝子が脱フッ素化に関与していることを明らかにしてきた。それぞれの反応を追跡するために、工業的に利用されているコリネ型細菌を用いた異種発現系を構築した。その結果、btf遺伝子を発現させたコリネ型細菌においてベンゾトリフルオリドの脱フッ素化が認められ、酵素がコリネ型細菌内で活性を示すことが明らかになった。また、脱フッ素化には上流2反応の酵素(BtfA1,BtfA2,BtfA3,BtfA4とBtfB)があれば充分で、下流の2反応の酵素(BtfC,BtfD)は必要ではないことが分かった。 最終年度は、それぞれの反応産物について同定を試みた。初発の酵素反応(BtfA1-A4)では確かにベンゾトリフルオリドの酸化物が生成していることが、NMRと質量分析により確認された。また二番目の酵素反応(BtfB)では、その化合物が還元されベンゼン環がジヒドロキシ化されたカテコール産物が生成していることもNMRと質量分析により明らかになった。カテコール化合物は培養時間の経過とともに徐々に脱フッ素化されていく事が分かり、その原因がpHにあることを突き止めた。以上から、ベンゾトリフルオリドの脱フッ素化はBtfAとBtfB反応によるカテコール化と塩基性環境による自発的な脱フッ素化によることが明らかとなった。また酸性条件では脱フッ素化を抑えられたことから、酸性条件下でBtfC反応を導入することでカテコールから新しいフッ素化合物へ変換できる可能性が示された。
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