アルツハイマー病(AD)の原因物質とされているアミロイドβタンパク質(Aβ42)は,オリゴマー化(凝集)することによって神経細胞毒性を示す.このことから,Aβ42の凝集阻害剤はAD治療薬として期待される.近年,漢方薬の抑肝散はAD病態の進行を遅らせることが知られており,すでに臨床で用いられている.しかしながら,抑肝散のAβ42の凝集能への影響など作用機構の詳細はほとんど明らかになっていない.最近,本研究グループは,抑肝散の構成生薬の一つであるチョウトウコウ(アカネ科カギカズラUncaria rhynchophylla)のアセトン抽出物がAβ42の凝集能を強く抑制することを見いだした.本研究は,チョウトウコウに含まれる活性物質を単離・同定するとともに,そのAβ42凝集抑制メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的としている. 昨年度,活性物質の一つとして同定したウンカリン酸は,Aβ42の凝集初期段階である核形成過程を抑えていることが判明したことから,チョウトウコウの強い凝集抑制活性を説明する上で,Aβ42の凝集後期段階であるアミロイド線維伸長過程を抑える別の化合物の存在が示唆された.そこで本年度は,ウンカリン酸以外の活性物質の探索を行った.なお,凝集抑制能は,チオフラビンT蛍光法によって評価した.その結果,ウンカリン酸が含まれるフラクションよりも高極性側のフラクションに,より強いAβ42凝集抑制活性が見いだされたことから,アミロイド線維伸長過程の阻害に着目して,活性物質の単離および構造決定を進めている.
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